先日、3月決算の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。「退職金って、どうせもらうときに税金かかるんでしょ?今から積極的に準備する必要ありますか?」

この誤解、本当に多いんです。でも正直に言います。この認識のまま会社を続けると、生涯で数千万円、場合によっては3,000万円近くを余分に税金として払うことになります。

退職金は「二か所で得をする」仕組み

役員退職金の何がすごいかというと、二つの税優遇が同時に働く点です。

一つ目は、退職金を支払った年に全額を会社の経費(損金)として落とせること。利益が圧縮されるので、法人税がその分減ります。

二つ目は、受け取った社長の側では退職所得として課税されること。退職所得は給与所得と違い、「(受取額 − 控除額)÷ 2」に対して課税される仕組みなので、実効税率が大幅に下がります。

会社は経費として節税しながら、社長は低い税率で受け取れる。この「二重節税」の構造を使い切っているかどうかで、引退後の手取りが劇的に変わってきます。

数字で見ると、差は約2,800万円

具体的に比べてみましょう。

勤続30年、月額役員報酬100万円の社長が9,000万円を会社から受け取るケースを想定します。

  • 退職金として受け取った場合:税負担は約1,600万円
  • 同額9,000万円を役員報酬として受け取った場合:税負担は約4,400万円

その差は約2,800万円。ほぼ3,000万円です。

同じ金額を受け取るのに、方法一つでここまで手取りが変わる。「退職金はどうせ課税される」と思っていた社長が、この数字を見て表情が変わる場面を、私は何度も目にしてきました。

「規程なし」は税務署に否認される

ただし、ここに大きな落とし穴があります。

退職金規程が整備されていない会社は、いざ退職金を支払っても税務調査で損金算入を否認されるリスクがあります。根拠のない多額な支出とみなされれば、せっかくの節税効果がゼロになりかねません。

規程を作る際のポイントは、功績倍率を2〜3倍に設定すること。これは法律で決まった上限ではなく、税務調査で問題になりにくい実務上の目安です。倍率が高すぎると「過大な役員退職金」として一部否認される危険があります。

計算式のおさらいをしておくと、退職金の目安額は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」。月額100万円・勤続30年・倍率3倍なら、ちょうど9,000万円という計算です。

3月決算なら、動くなら今

退職金規程は、退職の直前に慌てて作っても信ぴょう性に欠けます。長期間にわたって規程が存在し、適切に運用されていることが税務上の安全性を高めます。

3月決算の会社であれば、今期の利益が見えてきたこの時期こそ整備のタイミングです。規程の有無を確認し、必要であれば税理士と相談して適切な水準を設計しておく。それだけで、将来の手取りが数千万円変わる可能性があります。

「設立以来ずっと後回しにしてきた」「規程はあるが、何年も見直していない」という社長は、ぜひ今期中に一度、税理士に退職金設計の相談をしてみてください。設計ひとつで、引退後の安心感がまったく違ってきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。