先日、顧問先の経営者からこんな電話がかかってきました。「退職金の手続きが全部終わってほっとしていたら、翌年に税務調査の通知が来たんです。何がまずかったんでしょうか」と。
役員退職金は、オーナー社長にとって最大の節税チャンスのひとつです。退職所得控除という強力な優遇制度があるおかげで、同じ金額を給与で受け取るより手取りが数百万円変わることもある。だからこそ、税務署もしっかり目を光らせています。
今回は、退職金設計で税務調査の「フラグ」が立ちやすい5つの特徴を整理しました。自分自身の退職金を考えている社長も、後継者への承継を検討している方も、ぜひ最後まで読んでみてください。
5位:退職直前に役員報酬を急増させている
退職金の計算には「最終月額報酬」を使うことが多いため、退職直前に報酬を引き上げて退職金を水増しするケースがあります。半年前に月100万円だったものを急に180万円に上げると、退職金の計算ベースがそのまま跳ね上がります。
税務署はこのパターンを当然把握しています。報酬変更に合理的な理由が説明できない場合、水増し分の退職金が否認されるリスクが高い。退職金計算のベースとなる報酬額は、2〜3年以上の実績で裏付けられているのが理想です。
4位:在任期間が10年未満
役員就任からの期間が短いと、「経営への貢献に本当に見合う金額なのか」という疑問を持たれやすくなります。在任3〜5年で数千万円の退職金を受け取る形は、税務署からすれば説明を求めたくなる案件です。
在任期間が短くても適切に退職金を設計することは不可能ではありませんが、10年未満の場合は功績の内容を客観的な資料で記録しておくことが特に重要になります。会社の成長に具体的にどう貢献したか、言語化しておくことを強くおすすめします。
3位:退職金を分割払いにしている
「会社のキャッシュが足りないから、3年かけて分割で払おう」——その気持ちはわかりますが、税務的には大きな落とし穴です。退職金は退職時に一括で支払うのが原則であり、分割払いにすると「実態は給与ではないか」と疑われます。
退職所得として認められるためには、退職の事実と一括支払いの実態がセットで必要です。どうしても分割が必要な場合は、事前に専門家と相談して対策を立ててください。
2位:書類だけの「分掌変更退職」
これは非常に多いケースです。「代表取締役から取締役に降格したので退職金を支払った」という形式を取りながら、実際には変わらず会社の経営中枢にいる——という状態です。
税務では、このような「名目上の退職」は原則として認められません。役職名の変更だけでなく、報酬が大幅に下がっている、業務への指揮命令権がなくなっているなど、実態の変化を客観的に示せることが必要です。否認されると退職金の全額が給与所得として課税されます。書類を整えるだけでは不十分なので、実質的な役割の変化をセットで設計することが欠かせません。
1位:功績倍率の設定ミス
これが最もリスクが高く、最も金額インパクトが大きいポイントです。役員退職金の計算でよく使われるのが「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」という方法ですが、この「功績倍率」の設定を誤ると取り返しのつかないことになります。
税務調査で否認されにくいとされる目安は3倍以内。これを超えると「不相当に高額な退職金」と判断され、超過分の損金算入が認められなくなります。さらに悪意のある過大支給と認定されれば、重加算税35%が上乗せされます。功績倍率を5倍・6倍に設定したことで追徴税額が1,000万円を超えたケースも実際に起きています。
功績倍率は同業他社の水準を参照しながら、合理的な根拠とともに設定することが鉄則です。「高く設定できるから高くした」では通りません。
退職金は「数年前から」の設計が全て
退職金で税務リスクを回避するために重要なのは、退職の直前ではなく数年前から計画的に準備を進めることです。報酬水準の実績を積む、在任期間を確保する、功績倍率の根拠となる資料を整備する——これらは退職直前に慌てても間に合いません。
まだ退職金規程がない、あるいは作ったのが10年以上前という会社は、今期中に専門家と一緒に見直しておくことを強くおすすめします。規程を整えておくだけで、受け取るときの安心感がまったく違います。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。