先日、ある経営者の方からこんな話を聞かせていただきました。
「税理士に自社株の評価額を出してもらったら、3億円だと言われて。息子に譲ろうとしたら贈与税が8,000万円かかるって言われて、頭が真っ白になりました」
40年かけてゼロから育てた会社が、まさか承継の足かせになるとは——。そう感じた経営者は、決して少なくありません。
この問題、実は法人保険をうまく活用することで、自社株の評価額そのものを圧縮できる可能性があります。今日は、その仕組みをできるだけわかりやすくお伝えします。
優良企業ほど「自社株が重くなる」逆説
非上場企業の株式評価は、国税庁が定めるルールに従って算出されます。中小企業に多く用いられる類似業種比準方式では、会社の配当・利益・純資産の3つの指標が評価額に直結します。
長年にわたって利益を積み上げてきた優良企業ほど、評価が高くなりやすい構造です。つまり「業績が良い会社=相続・贈与のコストが高い」というジレンマが生まれます。
冒頭の経営者が途方に暮れたのも、無理のない話です。会社を大きくすればするほど、次世代に渡すときの税負担が増えていくのですから。
法人保険が「評価を下げる」仕組み
ここで注目したいのが、法人保険の活用です。
保険の種類によっては、保険料の一部を会社の経費として計上できます。経費が増えれば、株価算定の基準となる「利益」が圧縮されます。結果として、自社株の評価額を引き下げることにつながります。
さらに重要なのは、この保険が将来の役員退職金の財源にもなるという点です。保険料を支払いながら積み立てをしつつ、退職時には解約返戻金を退職金の原資として活用できる。節税と退職金準備を同時に進める、いわば「一石二鳥の設計」です。
5年後の退職時に何が起きたか
先ほどの経営者の方の話に戻りましょう。
税理士のアドバイスのもと、会社として法人保険を契約し、数年間にわたって保険料を支払い続けました。その間、毎期の利益指標が少しずつ圧縮され、自社株評価も徐々に下がっていきました。
そして5年後、社長が退職するタイミングで保険を解約。受け取った解約返戻金を退職金として会社から支払いました。
この退職金の支払いによって会社の純資産が大きく減少し、株価評価は当初の約半分にまで圧縮されました。長男への贈与税負担も当初試算から大幅に抑えられ、事業承継がスムーズに完了したのです。
知っておきたい3つの注意点
この手法、うまく使えば強力ですが、いくつか押さえておくべきポイントがあります。
ひとつ目は、効果の大きさは会社の状況によって大きく異なること。規模・収益水準・選ぶ保険の種類で結果は変わります。「誰でも半分になる」わけではありません。
ふたつ目は、2019年の法人税法改正以降、損金算入ルールが厳しくなっていること。以前のような「全額損金」商品はほぼなくなり、損金算入できる割合が保険ごとに細かく定められています。契約前に税理士との確認が不可欠です。
みっつ目は、退職金の金額設計にも上限があること。役員報酬の水準や在任年数に基づいた「功績倍率」の範囲内でないと、高額部分は損金不算入になります。適切な金額設計が前提です。
「いつ動くか」がすべてを決める
事業承継の株価対策は、最低でも5〜10年の時間軸で考えるのが鉄則です。退職の直前に慌てて動いても、効果が出る前に時間切れになります。
「まだ先でいい」と思っているうちに、利益が積み上がって評価額がさらに高くなってしまうのが、この問題の怖いところです。
60代が視野に入ってきたら、まずは自社株評価の試算だけでもやってみることをおすすめします。数字を把握してから動くのと、漠然と不安を抱えたまま動くのでは、打てる対策の幅がまったく違います。保険代理店の営業トークではなく、事業承継に詳しい税理士に相談することが、失敗しないための第一歩です。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。