先日、ある製造業の社長からこんな言葉を聞きました。「会社を守るために、息子を借金漬けにしないといけないのか」。
その社長、63歳。自社株の評価額は2億円。顧問税理士に相続税のシミュレーションを依頼したところ、試算が1億2千万円と出たそうです。数字を見た瞬間、頭が真っ白になったと言っていました。
でも実は、この問題。法人保険をうまく活用すると、税負担を1億円近く削減できるケースがあります。 今日はその仕組みを、できるだけわかりやすくお伝えします。
相続税が重くなる構造
まず現実から確認しましょう。中小企業オーナーの財産は、その大部分が「自社株」という形に集中しています。会社が成長するほど株価は上がり、相続税の計算上の評価額も膨らんでいく。
現金や預金なら税金を払えますが、株は簡単に現金化できません。売ろうとすれば会社の支配権を失うリスクがある。後継者に銀行から借り入れさせるにも限度がある。「資産はあるのに、現金がない」というのが事業承継の一番の落とし穴です。
法人保険スキームの骨格
ここで登場するのが、会社を契約者にした生命保険です。
仕組みはこうです。会社が保険料を払い、社長(役員)を被保険者とした生命保険に加入します。保険料の一部または全部が損金に算入できるケースがあり、法人税を圧縮しながらお金を積み立てていく効果があります。
そして社長が退職するタイミングで保険を解約し、解約返戻金を役員退職金の原資に充てます。退職金には「退職所得控除」という大きな控除が適用されるため、同じ金額でも給与や配当で受け取るより税負担が格段に軽くなります。
さらに、社長が在任中に亡くなった場合には死亡保険金が遺族に支払われます。この保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。相続人が3人いれば、1,500万円がまるごと課税されません。
1億円の削減はどう実現するか
先ほどの63歳社長のケースに戻りましょう。
退職金で課税所得を大幅に圧縮し、保険金の非課税枠を活用する。加えて、保険料として会社のお金を使い続けることで、会社の純資産が下がり、自社株の評価額そのものが下がる効果も期待できます。株価が下がれば、相続税の計算のベースも小さくなります。
こうした複数の効果が重なり合って、この社長のケースでは税負担を約1億円削減できる試算が出ました。「保険1本で1億円」というのは誇張ではなく、設計次第で十分にありえる数字です。
失敗しないための3つの注意点
ただし、これは「加入するだけで勝手に節税できる魔法の商品」ではありません。実際に失敗するパターンをいくつか見てきたので、正直に書いておきます。
タイミングの問題。保険は「今すぐ加入できる健康状態」が前提です。高齢になってから始めようとしても、そもそも引受不可になるケースがあります。動くなら早いほど選択肢が広がります。
出口設計の甘さ。解約返戻金を退職金に使うためには、「いつ、いくら退職金を払うか」という設計が事前に必要です。退職金の金額が不相当に高ければ、税務上否認されるリスクもあります。
税制改正への対応。保険を使った節税スキームは、2019年の通達改正以降、特定の商品については損金算入が制限されています。古い情報や古い設計のまま動くと、想定した効果が得られないことがあります。
50代のうちに動くのが正解
事業承継の対策に「早すぎる」はありません。社長が健康なうちに、会社がまだ余裕のあるうちに、少しずつ手を打っておくのが鉄則です。
「息子もまだ若いし」「もう少し業績を伸ばしてから」と後回しにしているうちに、社長が病気になったり、株価がさらに上がって手がつけられなくなったりします。63歳で1億円の壁にぶつかってから焦るより、50代のうちにシミュレーションを始めたほうが、選択肢は格段に広がります。
自社株の評価額が高くなってきたと感じているなら、まず顧問税理士に「事業承継シミュレーション」を依頼してみてください。数字を見てから動いても遅くはありませんが、数字を見ないまま何もしないのが一番のリスクです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。