「引退後の収入、どうするか考えていますか?」
先日、年商10億規模の製造業の社長から、こんな相談を受けました。「役員報酬をもらっている間はよかったけど、引退後の収入源を何も作っていなかった」と。退職金は用意していても、毎月の生活費や手元の余裕資金は一度きりの退職金では心もとない。そんな不安から、不動産投資に本腰を入れ始めた、という話でした。
実は同じ悩みを持つ社長は多い。でも「不動産投資」と一口に言っても、選ぶ物件のタイプによって引退後の豊かさも税負担も大きく変わります。今回は、節税と相続を意識したうえで、引退前の社長にとって本当に使える不動産を3つに絞って整理してみました。
3位:区分マンション|手軽だが、引退戦略の柱にするには物足りない
最も身近な不動産投資が区分マンション、つまりマンションの一室だけを所有するタイプです。物件価格は数百万〜数千万円台から選べ、管理は管理会社に任せられる。利回りは4〜5%程度で、忙しい社長でも始めやすいのが魅力です。
ただ、「引退後の資産防衛」という目線で見ると、正直なところ物足りない面が出てきます。
最大の弱点は相続税の評価圧縮効果が薄いこと。不動産を持つと相続税評価額が下がるというのは有名な話ですが、区分マンション、特に都心の高額物件は路線価が高く設定されがちで、評価圧縮の恩恵を受けにくい。さらに一室単位では出口でも交渉力が弱く、売りたいタイミングで売れないリスクもあります。「始めやすい」ことは確かですが、引退後の柱にするには一手足りない印象です。
2位:一棟アパート|利回りと相続対策を同時に取りにいく
一棟まるごと所有する一棟アパートになると、収益力と節税効果の両面でぐっと強くなります。
表面利回りは、地方物件では8%超を狙えることもあります。都市部でも6〜7%台の物件は見つかり、区分マンションとの差は歴然です。引退後の毎月の家賃収入として、生活をしっかり支えられる水準になります。
相続対策としての効果も大きい。一棟アパートを所有すると、相続税の評価額が時価の60〜70%程度に圧縮されます。時価1億円の物件なら、相続税の計算上は6,000〜7,000万円の財産として扱われる。この差が積み重なると、子どもへの相続税負担は大きく変わります。
「引退後の収入も確保したい、相続税も減らしたい」という社長には、一棟アパートは現実的な選択肢です。ただし、空室リスクや建物管理の手間は伴うため、そこへの覚悟と準備は必要です。
1位:法人保有型|節税と事業承継を同時に叶える出口の最終形
多くの社長が見落としているのが、この「法人保有型」の活用です。
個人ではなく法人が不動産を保有したまま社長が引退し、引退後も法人に不動産を残し続ける。この設計が、なぜ最強なのか。
法人税の継続圧縮という点が一つ目の理由です。不動産の減価償却費が毎年の法人利益を削り、法人税を継続的に抑えてくれます。社長が引退しても、法人が物件を保有し続ける限りこの効果は何年も続きます。
事業承継との親和性が二つ目。不動産を法人に残したまま、会社の株式ごと後継者に渡せます。不動産を個別に売買する複雑な手続きが不要になり、スムーズな承継が実現します。
退職金との組み合わせ設計が三つ目。社長の退職金を支払った年に法人の利益を大きく圧縮し、翌年度からは不動産の減価償却で継続的に節税する。このタイミング設計ができると、節税効果は引退後も長く続きます。
早い段階で法人に不動産を組み込んでおくほど、減価償却の恩恵を長く受けられる点も重要です。「引退はまだ5年先」という社長こそ、今が仕込み時です。
「引退の絵」を描く前に、出口戦略を税理士と話してほしい
この3つを並べると、「手軽さ」より「節税と承継の組み合わせ」を意識するほど、上位の選択肢が輝いてくることがわかります。
区分マンションは入口としてはいい。一棟アパートは利回りと相続対策の両取りができる。そして法人保有型は、節税・承継・出口まですべてを見据えた仕組みとして機能する。
どれを選ぶかは会社の規模や引退時期、後継者の有無によって変わります。「まだ先の話」と思っているうちに選択肢は狭まっていきます。今期中に税理士と一度、法人の出口戦略を話し合ってみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。