7年前、ある製造業の社長からこんな言葉を聞きました。
「税理士に試算してもらったら、このままだと承継のときに相続税が3億円を超えると言われて。会社を大きくすればするほど、税金も増えるなんて、なんかおかしくないですか?」
年商5億円、従業員も100人を超えた立派な会社です。業績を上げることへの誇りと、それに比例して膨らむ税負担への不安。この矛盾に悩む社長は、実はとても多いんです。
法人で不動産を買うと、なぜ株価が下がるのか
中小企業の株価(正確には「自社株の評価額」)は、会社の純資産をベースに計算されます。このとき、会社が持つ不動産の評価額に大きな特徴があります。
市場で5億円で売買される土地でも、相続税計算に使う「路線価」では時価の約80%で評価されます。建物はさらに低く、固定資産税評価額(時価の40〜60%程度)が使われます。
つまり、5億円の現預金を会社に置いておくより、同じ5億円で不動産を取得したほうが、株価の計算上は資産価値が低く評価されるわけです。現預金が5億円なら株価にそのまま5億円が乗りますが、不動産なら2〜3億円程度の評価になりえます。
これが「法人名義での不動産取得による株価圧縮」の基本的な仕組みです。
ポイントは「3年間待てるか」
ただし、ここに一つ重要なルールがあります。
取得後3年以内の不動産は、路線価や固定資産税評価額ではなく、時価(ほぼ取得価額)で評価されます。つまり5億円で買った直後は、株価計算上も5億円の資産として扱われるということです。
田中社長(仮名)の場合、7年前に法人名義で収益不動産を5億円で取得しました。最初の3年間は株価への効果がほぼありませんでした。しかし取得から3年を過ぎた頃から、評価額が路線価・固定資産税評価額ベースに切り替わり、じわじわと株価が圧縮されていきます。
そして7年後の事業承継時には、株価の圧縮効果によって相続税の負担が約2億円軽減されていました。7年前に動き始めた決断が、承継の瞬間に結実した形です。
2024年以降は「高額マンション」に注意が必要
ここ最近、気をつけたいのが高額な区分マンションの扱いです。
以前は、路線価で計算すると市場価格の30〜40%程度にしかならないマンションが節税に多用されていました。これが「行き過ぎた節税」として問題になり、2024年以降は市場価格の約60%水準を下回る場合に補正がかかるルールが導入されています。
すべての不動産が同じように使えるわけではありません。物件の種類・立地・取得価格によって効果は大きく変わります。「節税になると聞いたから買った」だけでは、想定通りの効果が得られないケースもあります。
「節税のための不動産」に潜むリスク
田中社長がこの対策を成功させた背景には、7年という長い時間軸があります。不動産は取得後すぐに効果が出るわけではなく、空室リスクや管理コスト、将来の売却時の課税なども経営負担として残ります。
「節税になるから」だけで判断すると、本業の経営を圧迫することになりかねません。「不動産として経済合理性があり、かつ株価圧縮の効果も期待できる」という順番で判断することが重要です。
承継まで10年以上ある段階で動き始めた社長が、最も恩恵を受けやすいのは確かです。逆に「承継まで3年を切っている」という状況では、3年ルールの壁があるため、別の対策を優先すべき場合もあります。
まず「自社株の評価額」を知ることから始める
自社の株価がどのくらいか、把握していない社長は意外と多いです。「承継はまだ先の話」と思っていても、試算してみると思っていたより大きな数字が出てきて、早期着手の必要性に気づくケースは少なくありません。
今期の決算が終わったタイミングで、一度税理士に「うちの株価はいくらになっていますか?」と聞いてみてください。その数字が、承継対策を始めるかどうかの、最初の判断材料になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。