先日、税理士の知人からこんな話を聞きました。60代を目前に控えた製造業の社長が、「引退後に手元に残るお金ってだいたいいくらくらいかな」とぼんやり考えていたところ、3つの制度を組み合わせるだけで手取りが大幅に変わることを初めて知り、目を丸くしたというのです。
「もっと早く知っていれば」——引退間際の経営者から、こういう言葉をよく聞きます。節税の手が打てる時間は有限です。特に役員の引退に関わる制度は、早めに仕込むほど効果が大きくなります。今回は、引退前に検討しておきたい節税制度をランキング形式でご紹介します。
第3位:iDeCo(個人型確定拠出年金)
企業年金のない中小企業の役員であれば、iDeCoに毎月2万3,000円、年間で27.6万円まで積み立てることができます。そしてこの全額が所得控除の対象になります。
実効税率が30%であれば、年間で8万円強の税負担が減る計算です。しかも運用期間中の利益には一切税金がかかりません。10年・20年と積み立て続ければ、複利の力が着実に積み上がっていきます。
受け取り時も、一時金として受け取れば退職所得控除が使えます。積み立て中・運用中・受け取り時と、3段階で税優遇が受けられるのがiDeCoの強みです。
「年27万円じゃ大した効果はないかな」と感じる方もいるかもしれません。でも10年続ければ元本だけで276万円。そこに非課税の運用益が乗ってくることを考えると、早く始めるほど有利です。
第2位:小規模企業共済
中小企業の経営者や役員向けの退職金制度として知られているのが、小規模企業共済です。毎月最大7万円、年間84万円を掛け金として支払うことができ、この全額が所得控除になります。
年84万円の控除は、思っている以上に大きな効果をもたらします。所得税と住民税を合わせた実効税率が40%のケースなら、年間33万円超の税負担が軽減できます。仮に20年続ければ、それだけで600万円以上の節税になる計算です。
さらに、受け取り時の解約金は「退職所得」として扱われます。退職所得は課税対象になるのが金額の半分だけ。給与で受け取るのと比べて、圧倒的に税負担が軽くなります。
掛けながら節税し、受け取るときにまた節税できる——この二重の節税効果が、小規模企業共済を社長の資産形成に欠かせない制度にしています。
第1位:役員退職金の最大化
3つの中でダントツの節税効果を持つのが、役員退職金の設計です。日本の税法の中でも、退職所得は特に手厚い優遇が設けられています。
まず勤続年数に応じた「退職所得控除」があります。勤続30年の場合、控除額は1,500万円。最初の1,500万円には税金がかかりません。さらにそれを超えた部分についても、課税されるのは「超えた額の1/2」だけです。
仮に退職金が5,000万円だったとしましょう。控除の1,500万円を差し引いた3,500万円のうち、課税されるのはその半分の1,750万円です。しかも他の所得とは切り離して計算(分離課税)できるため、税率も抑えられます。給与で同じ額をもらうケースとは比較にならない有利さです。
ただし、金額設定には注意が必要です。税務調査で「過大な役員退職金」と判断されると否認されるリスクがあります。実務では、最終報酬月額×勤続年数×功績倍率(2〜3倍)が適正額の目安とされており、この範囲内に収めることが税務リスクの管理として重要です。
3つを組み合わせると、さらに大きな効果が生まれます。在職中はiDeCoと小規模企業共済で毎年の所得税を抑えながら資産を積み立て、引退時には役員退職金として一括で受け取る。すべての制度が「退職所得の優遇」という同じ方向を向いているため、うまく連動させることができます。
大切なのは、引退の少なくとも5〜10年前から準備を始めることです。役員退職金の功績倍率は最終報酬月額が基準になるため、報酬設計を含めてトータルで考える必要があります。思い立った今が、一番早いタイミングです。
担当の税理士と一度、「引退後の手取りをどう最大化するか」というテーマで腰を据えて話し合ってみてください。ひとつひとつの制度の節税効果より、3つを組み合わせた設計がいかに重要かが実感できるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。