先日、製造業を営む60代の社長からこんな相談が届きました。「親父が去年急逝して、会社の株が兄弟4人にバラバラに渡ってしまった。設備投資の話をするたびに反対される。会社が完全に動かなくなってしまっている」——そんな内容でした。
話を聞きながら、「これは珍しいケースではない」と感じていました。相続で会社が機能不全に陥るパターンは、ある程度決まっています。今回は、よくある「会社を潰してしまった社長の共通点」をランキング形式でお伝えします。
3位:自社株が「親族に分散」していた
最初によくあるのが、株式の分散問題です。
創業者が亡くなると、遺言がない限り株式は相続人全員に法定相続分で渡ります。子供が4人いれば、それぞれが25%ずつ保有することになります。
問題は、議決権の構造です。株式会社の通常決議には過半数、特別決議(定款変更や会社の重要事項)には3分の2以上の賛成が必要です。4人に均等分散した状態では、1人でも反対すれば議決権の25%が反対票になります。これだけで特別決議は通らなくなります。
冒頭の社長の話も、まさにこのケースでした。設備を更新したくても、事業に関わっていない兄弟が「配当を減らすな」と反対する。経営者として判断を下せない状態が続いているとのことでした。
株の分散は、事前の対策で十分防げます。生前贈与、種類株式の活用、遺言書の整備など、手段はいくつもあります。重要なのは「まだ元気なうちに動く」ことです。
2位:自社株の「評価額」を知らなかった
次によくあるのが、自社株の評価額に関する認識不足です。
「うちはまだそんなに大きくないから、相続税はたいしたことないだろう」——そう思っている社長は少なくありません。ところが、自社株の評価額は想像を大きく超えることがあります。
たとえば、純資産が5億円の中堅製造業。類似業種比準価額や純資産価額方式で計算すると、自社株評価額も数億円に達することがあります。仮に評価額が2億円とすれば、相続人の状況によっては相続税が5,000万円以上になることも珍しくありません。
現金ならその場で税金を払えます。しかし自社株は「会社に置いたまま」の資産です。相続人は手元の現金から数千万円を払わなければならず、それが難しければ会社の売却か解散という選択が現実になってきます。
まずは「自社株がいくらになるか」を確認することから始めてください。顧問税理士に試算を依頼するだけでいいです。その数字を知ることが、対策の第一歩です。
1位:生前に「完全無対策」だった
そして最も多く、最も致命的なのが「何も手を打っていなかった」というケースです。
事業承継の相談は、社長が元気なうちに来ることはほとんどありません。多くの場合、社長が倒れてから、あるいは亡くなってからご家族が駆け込んでこられます。しかしそのタイミングでは、使える手段が激減します。
元気なうちであれば、「事業承継税制の特例措置」という制度が使えます。後継者が自社株を引き継いだ際の相続税・贈与税が猶予(要件を満たせば実質免除)される制度で、中小企業の事業承継にとって事実上の「切り札」です。数千万円単位の節税効果が見込める場面も少なくありません。
ただし、この特例措置には明確な期限があります。2027年12月末までに贈与・相続が発生している必要があり、それ以降は特例の適用が受けられなくなります。2026年の今から逆算すると、残り時間は決して多くありません。
「そのうち動こう」という先送りが、会社を守る最大の障害になっています。
相続は「縁起でもない話」として後回しにされやすいテーマです。でも経営者にとっては、会社の存続に直結する最重要事項のひとつです。
自社株の評価額を確認したことがない、株式の分散リスクを放置している、事業承継の計画がまだない——そういう社長は、今期中に専門家への相談を一歩踏み出してみてください。手遅れになってから後悔するには、あまりにも重要なテーマです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。