先日、ある製造業の社長から深刻な顔でこんな相談を受けました。

「税理士に『そろそろ株の対策を考えた方がいい』と言われたんだけど、うちの株ってそんなに高いの?」

その会社、創業30年でしっかり利益を積み上げてきた優良企業です。顧問税理士に試算してもらったところ、自社株の評価額が想定の倍近くになっていました。このまま何もしなければ、相続税だけで数千万円を超える可能性がある——そう聞いて、社長は思わず絶句していました。

自社株の問題は、気づいたときには手遅れになりかねません。今回は、評価額を合法的に引き下げるための代表的な3つの方法をお伝えします。

役員退職金を活用して「利益」を圧縮する

中小企業の自社株評価は、会社の純資産や利益に連動しています。つまり、利益が大きいほど株価も上がる構造になっているんです。

そこで有効なのが、役員退職金の支払いです。適正額の退職金を支払うことで、その分が損金(費用)として計上され、利益が圧縮されます。結果として、株価の評価額も下がる効果が期待できます。

具体的なイメージとして、たとえば1億円の役員退職金を支払った場合、株価が数割下がるケースも珍しくありません。長年会社を支えてきた役員への正当な報酬として支払いつつ、株価対策にもなる——まさに一石二鳥の手法です。

ただし、退職金の金額が「不相当に高額」と判断されると、税務署から否認されるリスクがあります。在任年数や最終報酬月額をもとにした計算式(功績倍率法)で適正額を算出することが大前提です。必ず税理士と連携して進めてください。

不動産投資で「純資産」を調整する

自社株の評価方法のひとつ、純資産価額方式では、会社が保有する資産の時価合計から負債を差し引いた金額が株価のベースになります。ここに不動産を活用する余地があります。

現金や預金はそのままの金額で評価されますが、不動産(特に賃貸用の建物)は相続税評価額での計算になるため、時価よりも低く評価されるケースが多いのです。

たとえば、手元に2億円の現金がある状態では、2億円まるごとが純資産に算入されます。一方、そのお金で賃貸不動産を購入すると、相続税評価額ベースでは1億2,000万円程度になることもあります。この差が、株価の圧縮につながるわけです。

ただし、これは「節税目的だけの投資」として税務上問題になるケースもあります。収益性のある不動産をきちんと選ぶこと、そして事業の実態として合理性があることが求められます。投資として成立するかどうか、本業との兼ね合いも含めて慎重に判断しましょう。

持株会社(ホールディングス)で株を「分散」させる

3つ目は、持株会社(ホールディングス)を活用する方法です。少しスキームが複雑に見えますが、仕組みを理解すると非常に効果的な手段です。

ざっくり言うと、オーナー社長が直接持っている自社株を、新たに設立した持株会社に移すことで、株の評価や移転をコントロールしやすくする手法です。

持株会社を経由することで、たとえば後継者への株の移転を段階的に進めやすくなります。また、持株会社の株価は、子会社(事業会社)の株価をもとに計算されますが、その際に「会社規模の区分」が変わることで評価が下がるケースもあります。

さらに、複数の子会社を傘下に置くことで、リスク分散や組織の柔軟性も高まります。単なる節税対策にとどまらず、グループ経営の土台づくりとしても機能するのが持株会社の魅力です。

ただし、設立や移転にはコストがかかり、手続きも複雑です。また、組織再編税制の適用要件を満たさないと、思わぬ課税が発生することも。こちらも専門家の関与が必須です。

対策は「早ければ早いほど効く」

3つの手法をご紹介しましたが、共通して言えることがあります。それは、対策は早く始めるほど効果が大きいということです。

相続が発生してから「株が高かった」と嘆いても、もう手の打ちようがありません。自社株の評価を下げるには時間が必要で、特に不動産や持株会社の活用は、準備から効果が出るまでに数年かかることもあります。

「うちはまだ先の話」と思っている社長ほど、一度顧問税理士に現在の株価を試算してもらうことをおすすめします。数字を見て初めて「こんなに高かったのか」と気づくケースが非常に多いからです。

今期中に一度、自社株の評価額を確認するところから始めてみてください。それだけで、将来の相続税が大きく変わるかもしれません。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。