先日、都内で製造業を経営する60代の社長から、こんな相談を受けました。
「そろそろ息子に会社を継がせたいんですが、自社株の評価額が思ったより高くて……贈与したら税金だけで数千万円かかるって言われて、正直途方に暮れています」
この相談、実は珍しくありません。業績が好調で資産も積み上がってきた会社ほど、いざ事業承継を考えたときに「自社株の評価額が高くて動けない」という壁にぶつかります。
でも、ここで知っておいてほしいことがあります。自社株の評価方法は、実は1つじゃないんです。
評価方式は2種類ある
非上場株式の評価には、大きく分けて「類似業種比準方式」と「純資産価額方式」という2つのアプローチがあります。どちらを使うかは原則として会社の規模によって決まりますが、要件を満たせば有利なほうを選択できるケースもあります。
この「選べる」という事実を知っているかどうかで、承継時の税負担が大きく変わってきます。
類似業種比準方式は「業績が良くても評価が下がる」
類似業種比準方式は、その会社と同じ業種の上場企業の株価をベースに、配当・利益・純資産の3つの指標を比較して評価額を計算する方法です。
面白いのは、上場企業の株価が低迷している局面では、業績が好調な非上場企業でも評価額が抑えられやすいという点です。市場全体が冷えているときほど、この方式は有利に働く傾向があります。
また、役員報酬を適切に設定して利益を圧縮していたり、配当をあえて低く抑えていたりすると、さらに評価額が下がるケースもあります。会社の実態以上に「安く見える」評価になることがあるわけです。
この方式を使えば、相続税評価額が純資産価額方式と比べて3分の1以下になることも、決して珍しくありません。
純資産価額方式は「不動産を持つ会社には要注意」
一方の純資産価額方式は、会社が持っている資産をそのまま積み上げて評価する方法です。シンプルな考え方なのですが、これが曲者になることがあります。
特に注意したいのが、含み益を抱えた不動産を保有している会社です。帳簿上は昔の取得価額で計上されていても、評価額の計算では時価(相続税評価額)を使います。都心のビルや土地を持っている会社では、純資産価額が帳簿価額の2倍・3倍に膨らむことも珍しくありません。
実際に、ある不動産を複数所有する会社では、純資産価額方式で計算したところ、類似業種比準方式の3倍以上の評価額になったというケースもあります。この差が、そのまま相続税・贈与税の負担の差になるわけです。
どちらが有利かは「会社の中身」で変わる
整理すると、こんなイメージで考えると分かりやすいです。
- 利益が出ていて、不動産をあまり持っていない会社 → 類似業種比準方式が有利になりやすい
- 含み益のある不動産を多く持っている会社 → 純資産価額方式だと評価額が高くなりがち
- 大会社・中会社・小会社という規模の区分によって、原則の計算方式が変わる
特に中会社・小会社の区分に該当する会社は、一定の割合で純資産価額方式を組み合わせる計算になるため、不動産の含み益が大きいほど注意が必要です。
大切なのは、「自分の会社はどちらの方式が原則か」「要件を満たして有利な選択ができるか」を、決算が終わるたびに確認しておく習慣をつけることです。
評価額は「今すぐ」確認する価値がある
事業承継を考えるのは、まだ10年先という社長も多いかもしれません。でも、評価額の対策は「今の会社の状態」に応じて打てる手が変わります。業績が急拡大してから慌てて動いても、すでに評価額が跳ね上がっていて手遅れになるケースもあります。
たとえば、計画的に役員報酬を設定する、不動産の保有スキームを見直す、持株会社を活用するなど、早めに動いておくほど選択肢が広がります。自社株の評価額は、毎年の決算内容によって変動します。「まだ先の話」と思わず、今期の決算が終わったタイミングで一度、専門家に試算してもらうことをおすすめします。
自社株の評価方式は、知っているだけで数千万円の差が生まれることもある、経営者にとって本当に重要な知識です。まだ試算したことがないなら、ぜひ今期中に動いてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。