先日、製造業を営む60代の社長とお話しする機会がありました。「うちの自社株、そんなに評価額が上がってたの? もっと早く対策しておけばよかった」——そう言って、苦笑いされていたのが忘れられません。

会社を20年以上かけて育て、売上も利益も着実に伸ばしてきた。それ自体は素晴らしいことです。ただ、事業承継の観点から見ると、業績が上がるほど自社株の評価額が膨らみ、将来の税負担も重くなるという現実があります。「会社が大きくなるほど、承継コストが増える」——このジレンマに気づいていない経営者が、いまだに多いのです。

「今やる社長」と「5年後にやる社長」、税負担の差はいくら?

具体的な数字で考えてみましょう。

現在、自社株の評価額が5億円だとします。今すぐ後継者への贈与を実行すれば、株価が低い今のうちに手続きが完結します。そして重要なのが、2027年12月末を期限とする「事業承継税制の特例措置」を活用できることです。この特例を使えば、贈与税・相続税の納税が一定の要件のもとで猶予される——つまり、実質的な税負担を大幅に抑えることができます。

一方、5年後まで先延ばしにしたとします。会社がこの先も成長を続け、自社株の評価額が8億円に上昇していたとしたら。差額の3億円に実効税率約40%をかけると、税負担の差だけで約1.2億円になります。

同じ会社、同じ事業、同じ後継者への承継でも、「いつ動いたか」だけで1億円以上の差が出る。これが自社株対策の怖さであり、逆に言えば、今動くことの価値でもあります。

2027年12月末という「締め切り」は思ったより近い

事業承継税制の特例措置とは、後継者に株式を贈与・相続した際に、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。要件を継続的に満たし続ければ、最終的に税金が免除されるケースもあります。

この特例の適用期限は、2027年12月31日。「まだ1年半以上ある」と思うかもしれませんが、実際の手続きには相応の準備期間が必要です。顧問税理士との事前相談、自社株の評価額の算定、後継者との合意形成、必要書類の整備——これらをきちんと進めようとすると、最低でも数ヶ月はかかります。

「来年でいいか」という判断を毎年繰り返してきた結果、気づけば期限切れ——そのパターンで本当に損をした社長を、税理士の世界ではよく見かけます。

株価が低いタイミングが、そのまま節税のチャンスになる

自社株の評価額は、会社の業績・純資産・類似業種の上場株の株価などを組み合わせて算定されます。好業績の年が続くほど評価額は上がり、承継コストも重くなります。

だからこそ、株価が相対的に低い今のタイミングが、最大の節税機会になります。たとえば次のような状況は、評価額が下がりやすいタイミングとして知られています。

  • 設備投資や大型修繕で純資産が一時的に減少した年度
  • 役員退職金を支給して利益が圧縮された直後
  • 業界全体の株価水準が低下している局面

こうしたタイミングを意識しながら、2027年末という期限の前に動き出すことが、賢明な判断です。

節税で大切なのは「制度を知っているか」だけではありません。「いつ動くか」の判断が、最終的な税負担を大きく左右します。知識は税理士が補えます。でも、決断は社長にしかできません。

まず「自社株の評価額を知る」ところから始めてください

自社株対策を先延ばしにしている社長の多くが、「うちの株がいくらになっているか、実はよくわかっていない」とおっしゃいます。評価額を把握していなければ、対策の緊急度も判断できません。

まずは顧問税理士に「自社株の評価額を試算してほしい」と一本連絡するところから始めてみてください。その一本が、1億円以上の税負担の差につながるかもしれません。後継者が決まっているなら、なおさら今が動き時です。

2027年末まで、残り1年半を切っています。準備を含めると、動き出せる余裕はそれほど多くありません。「そのうち」を「今すぐ」に変えるだけで、会社の未来が大きく変わります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。