先日、年商8億の精密機器メーカーを経営する社長から、こんな相談を受けました。

「息子に会社を継がせたいんだけど、税理士から『今すぐ承継すると相続税だけで3億以上かかる可能性がある』と言われて…どうすればいいですか?」

社長は50代後半、創業から30年でここまで育て上げた会社です。業績は右肩上がり、従業員も100名を超えました。でも、その「成功」が思わぬ落とし穴になろうとしていたのです。

業績が良い会社ほど、自社株の評価額は跳ね上がる

中小企業の自社株評価は、会社の業績に連動しています。毎年利益を積み上げ、内部留保が増えれば増えるほど、株式の評価額は上がっていきます。

年商5億〜10億クラスの中堅企業であれば、自社株の評価総額が5億〜10億円になるケースは決して珍しくありません。評価額が10億なら、相続税の最高税率55%が適用される部分も出てきます。試算すると、3〜4億円の相続税が発生することも十分あり得る話です。

「そんな額、払えるわけがない。でも会社を売るつもりもない」

そう感じる社長は多い。でも実は、知らないだけで、この問題を大きく解決できる制度が存在します。

「事業承継税制の特例措置」という強力な武器

正式名称は「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例」といいます。長い名前ですが、要点はシンプルです。

条件を満たせば、自社株の贈与税・相続税が最大100%猶予される。

つまり、後継者に自社株を渡す際にかかる税金が、要件を満たしている限りずっと猶予され、最終的には免除になる可能性があります。3億の相続税が実質ゼロになるケースも、理論上は存在するのです。

この特例を使うには、主に以下の要件があります。

  • 先代経営者(親)が会社の代表者であること
  • 後継者が会社の代表者に就任すること
  • 後継者が5年間にわたり雇用の8割以上を維持すること
  • 「特例承継計画」を都道府県知事に提出すること

要件を見ると「ハードルが高そう」と感じる方もいます。でも事業承継に詳しい税理士と一緒に整理すると、多くの中小企業が適用可能だとわかります。

2027年12月末——その期限を知っているか

ここが本当に重要なポイントです。

この特例措置には適用期限があります。特例を使うために必要な「特例承継計画」の提出期限は近く、そして特例の贈与・相続の適用期限は2027年12月31日です。

つまり、この制度を使えるのはあと1年半ほど。期限を過ぎてしまったら、この特例は二度と使えません。「来年考えよう」では手遅れになります。

特例承継計画の策定から提出、実際の株式移転まで、最低でも半年〜1年はかかります。今すぐ動き出さないと、2027年12月末に間に合わない可能性があるのです。

先延ばしにするほど、リスクは積み上がる

もう一つ、見落とされがちなリスクがあります。

社長が高齢になり、突然の入院や死亡が起きると、承継を計画的に進めることができません。準備なく相続が発生した場合、この特例を使えないケースもあります。特に「特例承継計画」は先代経営者が生存中に提出する必要があります。

また、会社の業績が引き続き好調であれば、自社株の評価額は年々上昇し続けます。承継が遅れるほど、税負担の計算上の金額も大きくなっていきます。「今すぐ渡すつもりはないが、制度だけは使いたい」という方も、まず計画の提出だけでも早めに済ませておくことが重要です。

最初の一歩は「試算」から始めよう

自社株の評価額がいくらなのか——そこから始めましょう。

事業承継に詳しい税理士に依頼すれば、自社株の評価額を試算した上で「特例を使った場合の税負担がどう変わるか」をシミュレーションしてもらえます。この試算だけでも、承継に対する考え方が大きく変わります。

「うちはまだ早い」と思っている社長ほど、実は今が一番動きやすいタイミングです。後継者が若く、会社の業績が安定しているうちに計画を立てることが、最も有利な承継につながります。

事業承継の特例措置をまだ検討していないなら、今期中に専門の税理士に相談することを強くおすすめします。2027年12月末の期限は、思っているよりずっと早く来ます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。