先日、年商8億円の製造業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。
「自分が死んだあと、息子に会社を継がせるつもりなんだけど、相続税ってどれくらいかかるものなの?財産といえば自社株がほとんどで、現金はそんなにないんだよね」
試算を始めると、その社長の表情がみるみる変わっていきました。「えっ、そんなにかかるの?」——その一言が、この記事を書くきっかけになっています。
「うちは現金が少ないから大丈夫」は危険な思い込み
非上場企業の自社株は、証券取引所で価格がつく上場株とは仕組みが違います。「純資産方式」や「類似業種比準方式」と呼ばれる計算式で評価額が決まるのですが、ここに落とし穴があります。
業績が良いほど、評価額が上がるのです。
毎年しっかり黒字を出して内部留保を積み上げてきた会社ほど、自社株の評価は膨らみます。「うちは現金が少ないから相続税は大したことない」と思っていた社長が、試算してみたら自社株だけで3億円・5億円規模の評価になっていた——というケースは、決して珍しくありません。
相続税55%、払えなければ株を手放すことになる
日本の相続税の最高税率は55%です。仮に自社株の評価が5億円あれば、計算方法によっては相続税が億単位の負担になることもあります。
問題は「どう払うか」です。自社株は現金ではありません。
後継者となる息子さんや娘さんに「税金を払うための現金」がなければ、選択肢は銀行から借りるか、株を売るかに絞られます。しかし非上場株は簡単に売れるものでもない。そこで実際に起きているのが、後継者が経営の主導権を失ってしまうケースです。
「相続税を払うために株を一部手放したら、気がつけば支配権が他人の手に渡っていた」——これは絵空事ではなく、日本各地で起きている現実です。会社を守るために一生懸命働いてきた社長が、税金の問題で事業承継を失敗させてしまう。こんな理不尽な話はない、と思います。
知っておくべき「最大100%猶予」の切り札
ここで使えるのが「事業承継税制の特例措置」です。
この制度を活用すると、自社株に対する相続税の納税が最大100%猶予されます。猶予ですから免除とは少し異なりますが、後継者が要件を満たして経営を続ける限り、実質的に税負担ゼロで自社株を引き継げる仕組みです。
活用するための主な条件を整理すると、こういったものが挙げられます。
- 中小企業の非上場株式が対象であること
- 後継者が会社の代表者に就任すること
- 都道府県知事の認定を受けること
- 税理士や認定支援機関と連携して計画を策定すること
「手続きが複雑そう」と感じるかもしれません。確かに書類は多いです。ただ、多くの会社がこの制度を使って事業承継を乗り越えています。
2027年12月末という期限を甘く見ないでほしい
この特例措置には、対象となる期限があります。贈与または相続の適用期限は2027年12月31日。一見まだ先のように見えますが、準備にかかる時間を考えると、今から動き始めても余裕があるとは言えません。
認定支援機関との連携、都道府県への書類提出、後継者の要件確認と調整——これらを丁寧に進めると、1〜2年はかかることも珍しくありません。
「来年から考えよう」が積み重なると、2027年末はあっという間に来ます。
まず「自社株の評価額」を知ることから始める
冒頭の社長はその後、顧問税理士と連携して特例措置の申請準備を始めました。「早めに相談してよかった。知らなかったら本当にまずかった」とおっしゃっていました。
まず自分の会社の自社株がどのくらいの評価になっているのかを把握することが第一歩です。そこから相続税の試算をして、特例措置が使えるかどうかを確認する。このステップを踏むだけで、対策の優先順位がはっきりします。
会社を守るために稼いだ利益が、税金の知識不足で3割・5割と消えていく——そんな事態を防ぐために、今期中に一度、事業承継を専門とする税理士に現状を相談してみることをおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。