先日、ある製造業の社長からこんな電話がありました。「父が急逝して相続の手続きを始めたら、自社株の評価額だけで4億円近くになってしまった。現金がそれだけあるわけじゃないのに、どうやって相続税を払えばいいんだ」と。
自社株の相続は、中小企業オーナーにとって「見えない地雷」です。業績が良ければ良いほど株価は上がり、いざ相続となったときに「こんなに高い評価になっていたのか」と青ざめる社長を、私はこれまで何人も見てきました。
放置すると、最悪の結末が待っている
業績好調な会社ほど、純資産は積み上がります。設備投資を重ね、内部留保も十分にある。それは経営者として誇るべきことですが、相続の世界では話が変わります。
非上場株式の評価は主に「純資産価額方式」と「類似業種比準方式」の組み合わせで計算されますが、会社の規模や財務内容によっては純資産がそのまま高い株価に直結します。
相続人は「会社の株式」という形で巨大な財産を引き継ぐことになる。でも株式は現金と違って、すぐに分けたり売ったりできません。相続税の納期は原則10ヶ月です。払えなければ、会社を売却するしかない——という最悪のシナリオが、実際に起きています。
合法的に評価額を下げる3つの手法
ここからが本題です。適切な対策を事前に打っておけば、自社株の評価額を合法的に大幅に下げることができます。代表的な手法を3つ紹介します。
① 役員退職金を支給して純資産を圧縮する
役員退職金は、税務上の適正額の範囲内であれば全額損金計上できます。つまり、退職金を支給することで会社の純資産が減り、株価が下がります。
たとえば、代表が引退するタイミングで退職金として2億円を支給したとします。それだけで純資産が2億円圧縮され、株価算定の基礎となる数字が一気に下がります。適正な退職金額は「最終報酬月額×勤続年数×功績倍率」が目安で、一般的に功績倍率は3倍程度まで認められています。
ただし、相続直前の駆け込みで支給すると税務署に否認されるリスクがあります。数年前から計画的に進めることが重要です。
② 生命保険を活用して資産の構成を変える
会社が保険料を払う法人保険を活用すると、資産の形を変えることができます。
純資産価額方式では「資産 − 負債」が株価の基礎になりますが、現金や預貯金はそのまま資産に計上される一方、解約返戻金のある生命保険は解約返戻率に応じた評価になります。つまり、現金のまま置いておくより、保険に変換することで相続時点の資産評価を下げる効果があります。
近年は税務当局が目を光らせている分野でもあるため、商品の設計と選択は必ず専門家と相談の上で進めてください。
③ 持株会社を設立して評価方式をシフトする
これが最も本格的な手法です。事業会社の上に持株会社(ホールディングス)を作り、オーナーは持株会社の株式を保有する形に変えます。
持株会社には直接の事業収益がないため、評価方式が「配当還元方式」に変わるケースがあります。配当還元方式は純資産価額方式と比べると評価額が大幅に低くなる傾向があり、場合によっては純資産価額方式の10分の1以下になることもあります。
ただし、持株会社の設立には法人設立コストや登記費用、毎年の維持コストが発生します。税務上の適用要件もあるため、設計段階から税理士・司法書士と連携して進める必要があります。
3つを組み合わせると効果は倍増する
この3つの手法は単独でも有効ですが、組み合わせることで相乗効果が生まれます。たとえば、持株会社を設立してから役員退職金を支給し、さらに法人保険で残った資産を調整する——という流れで段階的に評価額を引き下げていくのが、実務の王道です。
重要なのは、相続が発生してからでは遅いということです。評価額の引き下げは相続開始前に完了している必要があり、特に役員退職金は支給から一定期間が経過していないと否認リスクがあります。
今すぐ「評価額の試算」だけでもやってみてください
もし社長の年齢が50代後半以降で、自社株の評価について一度も試算したことがないなら、今期中に動いたほうがいいです。評価額の試算自体は、決算書と謄本があれば税理士にすぐ依頼できます。
「まだ先の話」と後回しにするほど選択肢は狭まります。対策には数年単位の時間が必要です。今期の決算が終わったら、まず現在の自社株評価額を把握するところから始めてみてください。それだけで、打てる手がいくつあるか見えてきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。