先日、ある製造業の社長から相談を受けました。「うちの株、評価額が2億円くらいになってるらしいんだけど、相続になったらどうなるの?」というひと言です。
その社長、自社株の評価がここまで高くなっていたことを、つい最近知ったそうです。「半分、税金で持っていかれるってこと?」と聞かれたので、「場合によっては、それに近い話になります」とお答えしました。その瞬間の表情は、今でも忘れられません。
自社株2億円にかかる相続税の現実
非上場株式は、「評価額」に対して相続税が課税されます。
自社株2億円を含む相続財産が3億円規模になると、法定相続人の構成にもよりますが、相続税の負担は8,000万円前後に達することがあります。「会社は息子に継がせるつもりだけど、株を渡したら税金はどうするんだ」という問題が、多くの中小企業オーナーを悩ませています。
株式を後継者に渡さないと経営を承継できない。でも渡すと多額の相続税がかかる。この板挟みが事業承継最大の難所であり、手を打つなら評価が上がりきる前の今が勝負どころです。
3位:自社株の評価額そのものを引き下げる
相続税は「評価額」に課税されます。であれば、評価額を下げてしまえばいい、というのが出発点の発想です。
非上場株式の評価には「純資産価額方式」がよく使われます。これは会社の純資産(資産から負債を引いた額)が大きいほど株価が高くなる仕組みです。つまり、適切なタイミングで役員退職金を支払ったり、必要な設備投資を行ったりすることで、純資産を圧縮し、株価を引き下げることができます。
2億円の評価が1億円に下がれば、相続税の対象になる金額がそのまま半分です。数字のインパクトは非常に大きい。ただし、退職金の額には「不相当に高額」とみなされないための計算基準がありますし、節税目的だけの形式的な投資は認められません。実態を伴った対策であることが大前提です。
2位:相続時精算課税を使って生前贈与する
「生前贈与」はよく耳にする言葉ですが、2024年の税制改正で使いやすさが大きく変わりました。
相続時精算課税制度とは、60歳以上の親から18歳以上の子への贈与について、2,500万円まで贈与税を非課税にする制度です。最終的には相続税で精算されますが、ここに大きなメリットがあります。株価が低い今のうちに後継者へ贈与しておけば、将来業績が上がって株価が上昇しても、相続税の計算には「贈与時の低い評価額」が使われるのです。
さらに2024年からは、相続時精算課税に年110万円の基礎控除が新設されました。この範囲内であれば精算課税の枠を消費しないため、将来の相続税計算にも加算されません。制度の入口が広がったことで、小さく始めやすくなっています。評価が上がりきってから動くより、今動くほうが断然有利です。
1位:事業承継税制の特例措置を今すぐ使う
3つの中で最も効果が大きく、かつ「期限がある」という意味で最も急ぎが必要なのが、事業承継税制の特例措置です。
簡単に言うと、「後継者に株式を承継した場合、相続税・贈与税を全額猶予(要件次第で免除)する」制度です。2億円の株式を渡しても、要件を満たせば相続税ゼロで承継できる可能性があります。
ただし、この特例措置には適用期限があります。2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県に提出することが必要で、この期限を1日でも過ぎれば適用を受けることができません。
あと1年半。余裕があるように聞こえますが、計画書の作成・認定支援機関との協議・都道府県への提出という手続きには、それなりの時間がかかります。「来年でもいいか」と後回しにしていると、あっという間に間に合わなくなります。
今すぐ動き出すために
この3つの対策は、どれか1つだけで完結するものではありません。株価を下げながら生前贈与を組み合わせ、事業承継税制も並行して使う、という複数の手段を同時に設計するのが理想です。
そのためにまず必要なのは、自社株の現在の評価額を正確に把握することです。「なんとなく高そう」ではなく、実際に株価計算をやってみる。その数字を見た上で、どの対策から着手するかを決める。それが第一歩です。
2027年の特例期限が迫っている以上、「いつか動こう」では間に合いません。まだ自社株の評価を試算したことがないという社長は、今期中に顧問税理士へ相談することを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。