先日、58歳の建設会社の社長からこんな話を聞きました。「税理士に言われるまで、まったく気づいていなかったんですよ」と、苦笑い交じりに。
毎年の決算賞与として500万円を受け取っていたのに、実際に財布に残るのは250万円。所得税と住民税を合わせた実効税率が約50%に達していたのです。「会社は経費で500万円落として、こっちの手元には半分しか入らない。なんか損してる気がずっとしてたんです」という言葉が、妙に印象に残りました。
賞与と退職金、課税の仕組みがまったく違う
高所得の役員にとって、賞与と退職金では税制の土台からして違います。
賞与は「給与所得」として総合課税の対象です。年収が上がれば上がるほど税率も上がり、住民税10%を加えると最大55%近い税負担になります。年間500万円の賞与が手取り250万円というのは、決して誇張ではありません。
一方、退職金は「退職所得」として扱われ、ここに二重の優遇措置がかかります。
ひとつ目は退職所得控除。 勤続年数20年超の部分は1年につき70万円の控除が使えます。たとえば勤続30年なら、800万円+(10年×70万円)=1,500万円もの控除が受けられます。現役時代に積み上げた年数が、そのまま節税の武器になるわけです。
ふたつ目は1/2課税。 控除後の残額の、さらに半分にしか課税されません。給与所得の全額課税と比べると、この差はとてつもなく大きいのです。
10年分5,000万円を退職金で受け取ると何が変わるか
同じ5,000万円でも、受け取り方次第で手残りが劇的に変わります。
賞与で毎年500万円を10年間受け取った場合、実効税率50%なら手取りの合計は2,500万円です。
一方、同じ5,000万円を退職一時金として受け取る設計に切り替えると、退職所得控除と1/2課税の恩恵で実効税率は大きく下がります。設計次第では手取りが3,500万〜4,000万円規模になるケースも珍しくありません。数字にして1,000〜1,500万円の差です。会社が支出する金額は変わらないのに、社長の手残りがこれだけ増えるのです。
退職金設計を実行するための3つの準備
ただし、退職金設計には事前の仕込みが必要です。思いつきで「退職だから退職金を払う」では、税務署に否認されるリスクがあります。
まず、役員退職慰労金規程の整備。 役員退職金には、就業規則とは別に支給基準を定めた規程が必要です。これがないと「お手盛り支給」として認定されるリスクがあります。規程の中に、役員在任年数や功績倍率の算定方法を明記しておくことが重要です。
次に、財源の積み立て。 退職金の原資として、法人向けの生命保険(逓増定期保険など)を活用するのが一般的です。保険料の一部を損金算入しながら積み立て、解約返戻金を退職金の原資に充てる設計です。積み立て期間が長いほど返戻率が上がるため、早めに手を打つほど有利になります。
そして、退職の実態をつくること。 退職金には「実質的な退職」が求められます。名義だけ変えて実態が変わらない場合は否認されます。職務の縮小や権限の後継者への移譲など、実態を伴う設計が必要です。
「まだ先の話」が一番危ない
退職金設計の効果は、時間をかけるほど大きくなります。積み立て期間が長いほど保険の返戻率は上がり、退職所得控除に使える勤続年数も積み上がっていきます。
50代で引退を視野に入れている社長こそ、10年前から動き始めるのが鉄則です。「まだ先の話」と放置していると、気づいたときには手が打てる時間が残っていない、ということになりかねません。
今の賞与設計が本当に最善かどうか、一度顧問税理士に「退職金設計の試算を出してほしい」と声をかけてみてください。具体的な数字を見るだけで、意思決定がぐっとしやすくなるはずです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。