先日、創業25年の建設会社の社長から相談を受けました。「そろそろ引退を考えているんですが、退職金っていくらもらえるんですかね」と、少し照れながら聞いてきたんです。
試算してみると、驚くべきことがわかりました。設計の仕方によって、受け取れる退職金が6,000万円以上変わってくるという話です。
退職金はこの計算式で決まる
役員退職金の適正額は、多くの会社でこの計算式をベースに算定します。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率 = 退職給与適正額
たとえば、月額報酬が100万円、勤続25年、功績倍率が3.0なら7,500万円。同じ条件で功績倍率2.0なら5,000万円。たった1.0の差が、2,500万円の差を生むわけです。
社長が陥りがちな3つの損
現場でよく目にする「もったいないパターン」が3つあります。
①功績倍率を保守的に設定しすぎる
「3.0にすると税務調査で指摘されるかも」と怖がって、1.5や2.0に抑えているケースが少なくありません。でも、功績倍率3.0は法定上限でもなんでもありません。実務上の目安として定着している数字です。過度に保守的な設定は、将来の手取りを自分で削っているのと同じことです。
②最終月額報酬を上げるタイミングを逃す
計算式をよく見てください。報酬は「最終」の月額が基準になります。引退直前の報酬が高ければ高いほど有利です。にもかかわらず、「今さら上げても…」と先送りにしている社長が多い。少なくとも引退の3〜5年前から、計画的に報酬を見直しておく必要があります。
③勤続年数の起算点を間違える
「うちは創業20年だよ」と言うので確認してみると、役員就任は設立から2年後だった、というケースが意外と多いんです。勤続年数の起算点は「役員就任日」が原則であり、会社の設立日ではありません。数字の管理が曖昧なままだと、算定基礎そのものが揺らぎます。
功績倍率3.0の「本当の意味」
税務署が問題にするのは、功績倍率の数字そのものよりも、その倍率が業績や在任期間と釣り合っているかどうかという点です。
審査の焦点になるのは主に3つです。同業・同規模の会社の水準と比べてどうか、在任中に会社の業績に貢献してきたか、そして金額として「世間相場」と著しく乖離していないか。
逆に言えば、会社の成長に明らかに貢献してきた社長なら、功績倍率3.0はむしろ「正当な評価」として認められやすいのです。ただし、これはあくまでも一般論。業種・規模・役職の重みによって、適切な水準は変わります。
今すぐできる一手
引退がまだ先だとしても、今の段階でやっておくべきことがあります。
まず、役員就任日を正確に押さえておくこと。次に、現在の月額報酬が退職金設計の観点で適切かどうかを見直すこと。そして、退職金規程が整備されているかを確認することです。
退職金は「もらうとき」ではなく、「在任中の積み上げ」で決まります。引退を考え始めた段階では、すでに設計の余地が狭まっていることもあります。早めに動いた社長が、最終的に数千万円の差をつけているのが現実です。
今期の決算が終わったら、一度顧問税理士に「退職金シミュレーション」を依頼してみてください。数字を見れば、何をすべきかが自然と見えてきます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。