先日、役員歴7年の社長から「そろそろ会社を売却しようと思って、退職金を計算してみたんですが……思っていたより少なくて」というご相談を受けました。
計算自体は間違っていない。でも、もう少し早く知っていれば、もっと大きな金額が受け取れたはずでした。
退職金は「3つの数字」だけで決まる
役員退職金には、税務上もっとも一般的に使われる計算式があります。
最終月額報酬 × 役員勤続年数 × 功績倍率
シンプルに見えますが、この3つの数字がそれぞれ落とし穴になります。
たとえば月額報酬100万円で役員10年、功績倍率3.0倍なら、退職金の目安上限は3,000万円。これが5年だと半分の1,500万円になります。同じ月額報酬、同じ功績倍率なのに、勤続年数だけで1,500万円の差が生まれるわけです。
「功績倍率3.0倍」は法律じゃない
ここで多くの社長が誤解しているのが、功績倍率の扱いです。
3.0倍という数字は、法律で決まった上限ではありません。税務調査で否認されにくい、いわば「実務上の目安」として定着しているものです。
3.0倍を超えると完全にNGというわけではありませんが、税務署が「高すぎる」と判断するリスクが一気に上がります。そして否認されると、退職金の一部が「過大役員給与」として損金不算入になり、会社に法人税が追加でかかってきます。功績倍率を無理に高くしようとして追徴税が発生すれば、節税どころか損失になってしまいます。
3.0倍という数字は「超えるもの」ではなく「守るべき上限」として設計に組み込むのが賢明です。
問題は「勤続年数」を後から変えられないこと
月額報酬は就任後でも変更できます。でも役員勤続年数だけは、時間を巻き戻すことができません。
退職を考えはじめてから「あと3年、役員を続ければよかった」と気づいても、もう遅いのです。
実際、事業売却や事業承継を検討している社長の多くが、ここで後悔します。M&Aのスキームを組む段階になって初めて、退職金の設計を見直す機会が来るわけですが、そのときにはすでに勤続年数が確定していることが多い。
特に50代で創業した方や、途中で役員に就任した方は、意外と「役員歴が短い」ケースがあります。社長歴と役員歴が一致しているとも限りません。
設計で変えられること、変えられないこと
退職金の最大化に向けて、今からできることを整理してみます。
変えられること
- 最終月額報酬の水準(今から段階的に引き上げることは可能)
- 退職のタイミング(何年後に退職するかの計画)
- 功績倍率の根拠づくり(議事録・貢献実績の文書化)
変えられないこと
- 過去の役員就任日(勤続年数の起算点)
- すでに支払ってしまった低額月報酬の期間
逆に言えば、まだ退職まで数年あるなら、最終月額報酬と功績倍率の根拠整備に今から手をつけることで、受け取れる退職金は大きく変わります。
「損金算入できる退職金」の節税効果
退職金が節税として有効な理由のひとつに、受け取る側の税負担の軽さがあります。
退職金には退職所得控除があり、勤続年数に応じて大きな控除が受けられます。さらに控除後の金額を2分の1にしてから税率をかける仕組みになっているため、同じ金額でも給与で受け取るより手元に残る金額がはるかに多いのです。
会社側では損金として計上でき、受け取る社長側では税負担が軽い。この「二重のメリット」が、役員退職金が節税の王道と言われる理由です。
今すぐ確認すべきこと
この記事を読んで、まず自分の「役員就任日」を確認してください。登記簿謄本や定款の変遷を見れば正確な日付がわかります。
そしてその日から退職予定まで何年あるか、逆算してみてください。10年未満なら、退職のタイミングを少し見直すだけで数百万円単位で差が出る可能性があります。
退職金の設計は「退職の直前」に考えるものではありません。できれば退職の5〜10年前から、月額報酬の水準・退職時期・功績倍率の根拠づけをセットで設計しておくことをおすすめします。もし役員就任から日が浅いなら、今がもっとも「設計しやすい」タイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。