先日、ある社長からこんな相談を受けました。
「自分が死んだあと、息子にこのビルを残してやりたい。でも相続税でどれくらい持っていかれるんだろう」
土地と建物を合わせて時価3億円ほどの収益物件です。その社長は「半分くらいは覚悟している」とおっしゃっていました。でも実際には、状況によって子の手に残るのが4割程度になるケースもあります。半分どころじゃない。
相続税の最高税率は55%、計算はここから始まる
日本の相続税の最高税率は**55%**です。課税遺産総額が6億円を超えるとこの税率が適用されます。
不動産の評価には「路線価」を使います。路線価は時価の8割程度が目安。時価3億円の物件なら、相続税の計算上は約2.4億円として扱われます。「8割評価なら少し得じゃないか」と思うかもしれませんが、それはあくまで出発点の話です。
大型物件を複数持っていれば、累進課税によって実効税率は40〜50%に近づきます。さらに問題になるのが、現金が足りないときの話です。
キャッシュがないと「物件を売って納税」になる
相続税は現金で納めなければなりません。手元に現金が少なければ、収益物件を売却して納税資金を作るしかない。これが「売って納税」パターンです。
売却すると何が起きるか。まず仲介手数料など売却コストが3〜4%かかります。さらに売却益が出れば譲渡所得税も上乗せされる。相続直後の売却は取得費の引き継ぎ(取得費加算の特例)を使えることもありますが、それでも相続税と譲渡税を合算すると5〜6割が消えるケースは珍しくありません。
「相続させたはずの物件が、気づいたらほとんど手元に残っていなかった」——そんな現実が生まれるのです。
対策の柱は三つ。動けるのは生前だけ
では、どうすれば子に財産を多く渡せるのか。大きく三つの方向性があります。
① 早期贈与で相続財産を減らす
生前に計画的に財産を移転することで、相続財産そのものを小さくします。年間110万円の基礎控除を活用した暦年贈与が基本ですが、2024年の税制改正で持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。早く始めるほど効果が大きい対策です。
② 法人化で相続財産から切り離す
収益不動産を個人ではなく資産管理会社で保有する方法です。法人へ移転することで将来の相続財産から切り離せるうえ、役員報酬として子に所得を分散させる効果もあります。ただし移転時の税負担や法人維持コストを事前にシミュレーションしておくことが不可欠です。
③ 生命保険で納税資金を確保する
「500万円×法定相続人の数」が非課税枠として使えます。死亡保険金として受け取った現金で相続税の納税資金を賄えれば、物件を売らずに済む。相続財産の圧縮と納税資金の確保を同時に達成できる、一石二鳥の対策です。
「まだ早い」が一番危ない
相続対策の鉄則は、元気なうちに動くことです。亡くなった後では選択肢がほとんどありません。できることといえば相続放棄か物納くらいで、どちらも子にとって有利とはいえない。
今の物件評価額と家族構成を洗い出して、一度「自分の相続シミュレーション」をしておくだけで、現実が見えてきます。「まだ先の話」と思っているうちに、使えたはずの対策期間がどんどん削られていく。特に暦年贈与は年数がものをいう対策なので、早さがそのまま節税額に直結します。
収益物件を持っているオーナー社長は、ぜひ今期中に一度、相続税の概算試算を税理士に依頼してみてください。試算するだけでも、動き出すきっかけになります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。