先日、製造業を営む社長とお茶をしていたときのことです。「うちは不動産が5億あるから、相続は安泰だよ」とおっしゃっていました。試算したことはありますか、と聞いたら、「一度もない」という答えが返ってきました。
このパターン、本当によく見かけます。資産が多いから安心、ではなく、資産が多いからこそ、相続税も大きくなる。その現実を一度も数字で確認していない経営者が、思いのほか多いのです。
「評価額が下がる」は安心の理由にならない
不動産は相続税の計算で、市場価格そのままでは評価されません。土地は「路線価」、建物は「固定資産税評価額」が基準です。路線価は公示地価のおよそ80%水準で、建物の固定資産税評価額も市場価格の7割前後になることが多い。
5億円の不動産なら、相続税評価額は3.5〜4億円程度になるケースが多いです。「市場価格より安く評価されるなら問題ないのでは」と思われるかもしれません。しかし3.5億円でも、十分に重い課税対象です。
基礎控除で引けるのは数千万円だけ
相続税には基礎控除があります。計算式は3,000万円+600万円×法定相続人数です。
配偶者と子ども2人の計3人が相続人なら、3,000万円+600万円×3人=4,800万円が控除されます。相続税評価額を仮に4億円とすると、基礎控除を差し引いた課税遺産総額は約3億5,200万円です。
ここから各相続人が取得した金額に対し、累進税率が適用されます。取得額が2億円を超えると税率40%、3億円超で45%、6億円超になると50%という水準です。
試算すると見えてくる数字
課税遺産3億5,200万円を法定相続分で分配すると、配偶者が約1億7,600万円、子どもは各約8,800万円となります。各人の税額を合算すると、相続税の総額は7,000〜8,000万円規模になります。
配偶者控除(配偶者の取得財産のうち1億6,000万円まで非課税)を活用しても、子どもたちだけで3,000〜4,000万円の税負担が生じる計算です。預金や株式、保険解約返戻金なども加われば、相続税が1億円を超えることは決して珍しくありません。
対策は「早く打つ」ほど選択肢が広がる
相続税対策には、時間が何より重要です。よく使われる手法をいくつか挙げると:
- 賃貸活用による評価減:不動産を賃貸に出すと「貸家建付地」として評価額がさらに下がります
- 法人への資産移転:不動産を法人名義にすることで、個人の相続財産そのものを圧縮します
- 生前贈与の積み重ね:年間110万円の基礎控除を使った長期贈与は、積み重ねることで大きな効果を生みます
いずれも「すぐに効く」ものではありません。5年・10年単位で計画的に動くことが前提です。逆に言えば、相続が発生してからでは手遅れです。相続開始後10ヶ月以内に申告・納付が必要ですが、その時点で打てる手はほぼありません。
今日、一度だけ確認してみてください
「不動産が5億あるから安心」ではなく、「5億あるからこそ、早めに試算が必要」という視点に切り替えてみてください。
まず手元の固定資産税の納税通知書を引っ張り出し、法定相続人が何人になるかを確認するだけでいい。それだけで、おおよその相続税額のイメージが見えてきます。
まだ一度も試算したことがないなら、今期の決算が終わったタイミングで「ざっくり試算してほしい」と税理士に相談してみることをおすすめします。数字を見ると危機感と同時に、「まだ対策できる」という安心感も生まれます。動き出すなら、早いほどいいのです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。