先日、千葉県で運送会社を経営する67歳の社長とお話する機会がありました。自社株と不動産を合わせると相続財産はおよそ10億円。税理士に試算を依頼したところ、「相続税が3億円を超えます」と告げられたそうです。

「会社をここまで育てるのに30年かかった。なのに、死んだら息子に3億円の請求書が届くのか」

そう言って、社長は深くため息をついていました。でも今は、その納税額がほぼゼロになっています。使ったのは、保険と退職金の「二段活用」でした。

生命保険の非課税枠は意外と使われていない

相続税には、知っているようで見落とされがちな控除があります。生命保険の死亡保険金には「法定相続人の数 × 500万円」の非課税枠が設けられています。

この社長の場合、法定相続人が3人いたので、3人 × 500万円 = 1,500万円が非課税の枠として確保できます。現金ではなく保険金として渡すだけで、1,500万円分の課税を合法的に避けられるわけです。

ただ、これだけでは3億円超の相続税にはとても届きません。ここで本丸となる「法人保険×退職金」が登場します。

会社の財産を、生きている間に退職金として動かす

社長が法人名義で加入したのは「逓増定期保険」という仕組みの保険です。加入年数に応じて保険金額が増えていき、保険料は会社の経費として計上できます。

ポイントは、この保険を生前に解約して解約返戻金を受け取り、それを退職金の原資にするという流れです。

退職金には「退職所得控除」という大きな優遇があります。勤続40年の社長なら控除額だけで2,200万円。さらに残った金額の半分にしか課税されない「2分の1課税」もあります。実質的な税負担は、同額を給与で受け取る場合と比べてはるかに小さくなります。

つまり、会社の中に眠っているお金を先に退職金として引き出すことで、亡くなった時点の相続財産そのものを圧縮できるわけです。相続税を払うのではなく、相続される財産を減らす。これが発想の核心です。

自社株には事業承継税制を組み合わせた

佐藤社長がもう一手使ったのが「事業承継税制」です。後継者に自社株を贈与・相続する際、一定の要件を満たせば贈与税・相続税の納税が猶予される制度で、要件を継続していれば実質的に免除になります。

特例措置の適用には2027年12月31日までに都道府県へ申請する必要がありますが、自社株の評価が高くなっている中小企業オーナーには、真剣に検討してほしい制度です。

この3つを組み合わせた結果がこうです。

  • 個人保険の非課税枠で1,500万円を圧縮
  • 法人保険×退職金で相続財産そのものを大幅に縮小
  • 自社株に事業承継税制を適用して課税を猶予

3億円超だった相続税の納税額は、ほぼゼロになりました。「もっと早く知りたかった」というのが、社長の率直な言葉でした。

対策は「早く始めるほど」効く

逓増定期保険は加入から数年後に返戻率がピークを迎える性質があるため、早く加入するほど活用できる期間が長くなります。また事業承継税制の特例措置には期限があります。

「うちはまだ大丈夫」と思っている社長ほど、いざ試算してもらって数字に驚くパターンをよく目にします。まずは税理士に自社株と不動産の現在評価額を出してもらうだけでも、見えてくるものが変わります。対策は、現状を把握するところから始まります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。