先日、70代の製造業の社長から「息子に会社を渡す準備を始めたら、数字が怖くなってきた」という相談を受けました。

年商3億円、自社株の評価額は2億円超。そこに相続税がかかり、さらに後継者が株を他の相続人から買い取る資金も必要になる。試算してみると、合計5000万円をゆうに超えてしまったのです。「こんなにかかるとは思っていなかった」と、社長は青ざめていました。

事業承継に「まとまったお金」が必要な理由

事業承継というと、「会社を息子に渡すだけでしょ」とイメージする方も多いです。でも現実には、大きく二つのコストが発生します。

一つ目は自社株にかかる相続税。中小企業でも株価評価が1〜3億円になるケースは珍しくなく、法定相続税率が30〜40%かかれば、税負担だけで数千万円規模になります。

二つ目は、後継者が株式を集中させるための買取資金。複数の相続人がいる場合、後継者が経営権を確保するために他の相続人から株を買い取る必要があります。これも簡単に数千万円規模になる。

合計すると5000万円を超えることは「例外」ではなく「普通」なのです。この現実を直視しないまま経営を続けている社長が、実はとても多い。

生命保険に「非課税枠」があることを知っていますか?

ここで強力なツールとして登場するのが、生命保険です。

あまり知られていませんが、相続税の計算において、死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。相続人が3人なら1500万円、4人なら2000万円が非課税になる。預貯金や不動産にはない、生命保険だけの特別なルールです。

たとえば相続財産が1億円あって、そのうち1500万円が死亡保険金なら、その1500万円には相続税がかかりません。同じ1億円でも、預貯金として持っているより生命保険で受け取るほうが、確実に税負担を圧縮できるのです。

後継者を受取人に指定しておけば、承継に必要な資金を非課税で直接渡せる。これだけでも十分強力ですが、法人契約ではさらに上乗せできます。

法人契約にすると「退職金」として受け取れる

個人が保険金を受け取るより、もっと節税効果の高い方法があります。それが「法人で保険に加入し、役員退職金として支給する」スキームです。

会社が保険料を払い、社長に万が一のことがあれば保険金が会社に入ります。その資金を原資に、後継者へ役員退職金として支給する流れです。

役員退職金には「退職所得控除」という大きな控除があります。勤続年数20年超の場合、「70万円×勤続年数」の金額まで非課税。30年勤続なら2100万円まで課税されず、それを超えた額も半分しか課税対象になりません。通常の給与と比べると、まったく別次元の有利さです。

つまり、生命保険を活用することで「承継資金の確保」と「税負担の圧縮」を同時に実現できる。これが「事業承継の最強ツール」と言われる理由です。

やってしまいがちな「タイミングの失敗」

一点だけ強く注意したいのが、加入タイミングです。

事業承継が現実的になってから慌てて保険に入っても、保険料の負担期間が短くなり、節税効果が薄れてしまいます。理想は、後継者の育成と並行して10〜15年前から計画的に準備を始めることです。

また、保険料の損金算入ルールは2019年に大幅改正されています。旧ルールのまま「昔聞いたスキーム」を活用しようとすると、思わぬ税務リスクを抱えることになります。設計前に必ず現行ルールを確認してください。

何もしないことが最大のリスク

冒頭の社長と話していて、気づいたことがあります。5000万円という数字は、「知らなかった」から大きくなっていた。10年前に手を打っていれば、同じ効果を半分以下のコストで得られた可能性が高かったのです。

生命保険は「もしものとき」のためだけのものではありません。会社と家族を守る、事業承継の設計図として機能します。

まだ生命保険を事業承継の観点で活用していないなら、今期の決算が終わったタイミングで、担当の税理士に一度相談してみてください。「保険は保険屋に任せればいい」という発想を、そろそろ変えどきです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。