先月、ある製造業の社長からこんな電話がかかってきました。「決算書を持って税理士に相談したら、うちの株の評価額を試算してもらったんだけど……相続税が1億円を超えるって言われた」と。
会社は黒字続きで、毎年しっかり利益を積み上げてきた。その経営努力が、今度は「高い株価」として跳ね返ってくる——これが多くのオーナー社長が知らずに抱えているリスクです。
今回は、すぐに動ける対策から中長期の戦略まで、自社株評価を合法的に引き下げる3つの方法をお伝えします。
黒字経営が相続税を押し上げる構造を知ってほしい
非上場会社の自社株は、主に「配当・利益・純資産」の3要素をもとに評価されます(類似業種比準価額方式)。
毎年の利益が積み上がると純資産が増えます。利益が出るほど評価も上がる。つまり、一生懸命経営して会社を大きくするほど、相続税の負担も膨らんでいく構図になっているんです。
「うちはまだ大丈夫」と思っているオーナー社長ほど、試算してみると驚くケースが多い。だからこそ、早めに手を打つことが重要です。
3位:配当金の見直しで「静かに」評価を下げる
手軽に実行できる対策として、まず「配当金の見直し」があります。
類似業種比準価額の計算では、配当金額が評価に直接反映されます。毎期コンスタントに配当を出してきた会社は、それだけで評価が底上げされている可能性があります。
「配当をゼロにする」と聞くと株主軽視に聞こえるかもしれませんが、事業拡大のための内部留保という名目であれば合理的な判断です。特にオーナーが株式の大半を保有する同族会社では、この決断をしやすい環境にあります。
配当をゼロにするだけで評価が数百万円単位で下がる会社は実際に少なくありません。まずは現在の配当方針を見直す価値があります。
2位:役員退職金で利益を圧縮する
次に効果が大きい方法が「役員退職金の活用」です。
退職金を支払った事業年度は、それが損金として計上されて利益が圧縮されます。評価の3要素の一つである「利益」が下がれば、自社株の評価額も連動して落ちていきます。
先代社長が事業承継を前に退任するタイミングで、まとまった退職金を支払う——こうすることで株価を下げた状態で株式を後継者に引き継ぐことができます。タイミングの設計が重要です。
ただし注意点があります。退職金の金額は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で算定するのが一般的ですが、功績倍率が高すぎると税務調査で否認されるリスクがあります。金額の妥当性については、必ず税理士と丁寧に確認してください。
1位:「大会社」区分に引き上げて評価3割削減
最も効果が大きいのが、会社規模を引き上げる戦略です。
非上場株式の評価方式は会社規模によって変わります。「大会社」に区分されると、評価に「類似業種比準価額方式」の比重が高まります。これは上場企業の株価を参照する方法で、一般的に純資産価額方式より低く評価されやすい特徴があります。
大会社の判定基準は業種によって異なりますが、例えば製造業(卸売業以外)では従業員数が100人以上、または売上高がおおよそ30億円以上が一つの目安になります。計画的に採用を進め、売上を拡大することで区分が上がれば、評価を3割以上削減できたケースも実際にあります。
事業成長と節税が一致するのが、この方法の最大の魅力です。短期間では実現しにくいですが、10年単位の事業承継計画に組み込む価値があります。
まず「今の評価額」を知ることから始める
3つの方法を紹介しましたが、前提として「現在の自社株がいくらで評価されているか」を把握しておくことが大切です。
意外と多くの社長が「なんとなく高そうだな」という感覚だけで、正確な数字を把握していません。顧問税理士に試算を依頼すれば、おおよその評価額を出してもらえます。
評価額がわかれば、どの対策が有効かの優先順位も見えてきます。「あとでやればいい」と後回しにするほど、打てる手が少なくなっていきます。今期の決算前に、一度試算を依頼してみてください。それが1億円を守る最初の一歩になります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。