先日、70代の製造業オーナー社長とお話しする機会がありました。「あと3年で息子に会社を渡そうと思っているんだが、今のうちにやっておくべきことはあるか」という相談でした。

そのとき私が最初に伝えたのは、「その3年間が、節税できる最後のチャンスです」という一言でした。

退職後は役員報酬が止まり、法人の経費枠も大幅に縮小します。在任中の最終フェーズをどう使うかで、手元に残るお金が数百万円単位で変わってくるのです。

退職3年前に仕込める経費の3つのルート

具体的に狙えるのは、大きく3つです。

まず役員社宅への切り替えです。社長が個人名義で自宅を借りているなら、この機会に会社名義で同じ物件(または別の物件)を借り直し、役員社宅として提供する形に変えることができます。適正な賃料相当額を社長個人が会社に支払えば、家賃のほとんどを法人の経費として計上できます。年間100万〜200万円規模の経費計上が可能で、3年間では300〜600万円の積み増しになります。個人では絶対に使えない、法人オーナーだけに許された手です。

次が設備投資の前倒しです。退職後も会社が使い続ける設備があるなら、購入のタイミングを在任中に引き寄せることで、減価償却費を意図的に在任期間中に集中させられます。ITシステムの刷新、工場設備の更新、事務所のリノベーション——「いずれやること」ならば、今やることに意味があります。年間数十万〜数百万の経費計上が積み上がります。

そして交際費の積み増しです。社長が退職すれば、その人脈を活かした接待・交際の機会は自然と減っていきます。だからこそ退職前の3年間は、得意先との関係強化や後継者への引き継ぎを兼ねた合同会食など、事業上必要な交際費を惜しまず使うタイミングです。年間100万円ペースで3年間積めば、それだけで300万円の経費になります。

3年で1000万、節税効果は約340万円

3つを組み合わせると、3年間で合計1000万円規模の経費を積み上げることは十分に現実的です。

法人実効税率を34%として計算すると、1000万円の経費増加は約340万円の節税効果に相当します。退職金の準備とは別に、在任中の最終フェーズで300万円超の税負担を軽減できるのは、経営者の大きなアドバンテージです。この数字を知っているかどうかで、退職時の手取りに明確な差がつきます。

実態のない経費は、絶対にNG

ここで一つ、厳しい話をしておかなければなりません。

税務調査では、経費の「実態」が厳しくチェックされます。社宅として借りているのに実際には住んでいない、設備を買ったが使っていない、接待したとされる相手が存在しない——こうした実態のない計上は、**重加算税35%**の対象になります。節税効果を消し去るどころか、追徴課税で損をする可能性があります。

大切なのは、事業上の必要性を文書で残しておくことです。社宅なら賃貸借契約書と適正家賃の計算根拠。設備投資なら購入稟議書と業務での使用記録。交際費なら参加者・目的・場所を記載した台帳。「なぜこの経費が必要だったか」を後から説明できる状態を作っておくことが、すべての前提です。

退職を意識し始めたら、今期中に動く

退職3年前に計画を立て始めた社長は、退職直前に慌てる社長よりも数百万円トクをします。「まだ5年ある」と思っているうちに動き始めることが、節税の最大のコツです。

もし事業承継や引退のタイミングが視野に入ってきたなら、今期の決算前にかかりつけの税理士と「あと何年で退職するか」を共有しておくことをおすすめします。それだけで、打てる手の幅がまったく変わってきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。