先日、あるセミナーで出会った50代の社長に、こんな質問をされました。「うちの会社、息子にちゃんと残せますか?」

業績は右肩上がりで、自社ビルも持っている。傍から見れば理想的な会社の姿です。でも私は、その言葉に少し複雑な気持ちになりました。なぜなら、業績が良い会社ほど見落としがちな「爆弾」があることを、知っているからです。

業績が良い会社ほど、自社株は怖い

ひとつの実話を紹介させてください。

売上10億円の建設会社を経営していた田中社長(仮名)が、60歳で急逝しました。地元では信頼の厚い優良企業で、利益も堅実に積み上がっていた会社です。

ところが、亡くなる直前の数年で業績が急伸したことが、思わぬ問題を引き起こしました。利益の積み上がりと保有不動産の評価上昇が重なり、自社株の評価額が死亡直前に5倍近くまで膨れ上がっていたのです。

相続した息子さんのもとに届いたのは、それに見合った膨大な相続税の請求書でした。

土地を売って、会社が死んだ

現金では払い切れない。息子さんが選んだのは「会社の土地を売却する」という方法でした。

しかしその土地には、工場と倉庫が建っていました。売却後は賃貸で借り続けることになり、毎月の家賃が新たな固定費として重くのしかかる。キャッシュフローが悪化すると仕入先への支払いが遅れ始め、取引先が一社、また一社と離れていきました。

田中社長が30年かけて育ててきた会社は、相続からわずか4年で廃業。息子さんは「父の会社を自分が潰してしまった」と、今でも自分を責めているといいます。

年1,200社が同じ理由で消えている

これは特別な話ではありません。自社株が原因で経営危機に陥る中小企業は、年間1,200社にのぼると言われています。

なぜこれほど多いのか。それは「経営が上手な社長ほどリスクが高くなる」という皮肉な構造があるからです。

利益を出せば内部留保が増え、自社株の評価額が上がる。不動産を持てば純資産が増え、また評価が上がる。会社を大きくすればするほど、相続時の税負担も膨らんでいく。上場株なら売って現金化できますが、非上場の自社株はそうはいきません。市場がないから売れない。それなのに税務署は容赦なく高い評価をつけてくる。これが自社株問題の本質です。

生前にできる2つのアプローチ

田中社長が生前に対策を打っていれば、結末は大きく変わっていたはずです。

自社株対策は大きく「評価額を下げる」か「納税資金を準備する」かの2方向に分かれます。

評価額を下げる手法の代表例は、役員退職金の支払いによる利益圧縮です。退職金を支払うことで一時的に純利益が下がり、その期の株価評価を引き下げられます。タイミングと金額を計画的に設計すれば、評価額を数十%単位で圧縮できるケースもあります。

一方、納税資金を準備する方法では、生命保険の活用が定番です。死亡保険金は受取人が直接受け取れるため、会社の資産を動かさずに現金を用意できます。田中社長のケースでも、適切な保険が一本あれば土地を売らずに済んだかもしれません。

「まだ先の話」では間に合わない

自社株対策には時間がかかります。評価を下げるための施策は最低でも1〜2年かけて計画的に進める必要があり、「そのうちやろう」では間に合わないことが多いのです。

田中社長は60歳で急逝されましたが、いつ何が起きるかは誰にもわかりません。

まだ自社株の評価額を確認したことがない社長は、今期中に一度、税理士に試算だけでもしてもらうことをおすすめします。数字を見るだけで、対策への意識はまったく変わってきます。「うちは大丈夫」と思っていた社長ほど、試算結果に驚くことが多いのが実情です。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。