先日、従業員40人を抱える製造業の社長から、こんな相談を受けました。

「先生、税理士から『社長の自社株、今の評価だと3億円を超えてますよ』と言われて。相続税がいくらになるか計算してもらったら、9,000万円以上かかるって。息子に会社を継がせたいのに、そんなお金どこから出るんですか」

顔が青ざめていました。無理もないことです。

自社株にかかる相続税の現実

会社オーナーの多くは、自分の会社の株式を大量に保有しています。業績が良い会社ほど株価(純資産)が高くなるので、気づかないうちに「億単位の相続財産」を抱えていることになります。

相続税の最高税率は55%。自社株の評価額が3億円あれば、相続人1人のケースで相続税は9,000万円を超えることも珍しくありません。

問題は「自社株はお金に換えにくい」という点です。現金や不動産と違って、株式をすぐに売るわけにもいかない。結果として、後継者は「相続税を払うために会社を売るか、廃業するか」という選択に追い込まれてしまうのです。

事業承継税制という「救済策」がある

この問題に対して、国が用意している制度があります。それが「事業承継税制」、とりわけ2018年に創設された「特例措置」です。

ひとことで言うと、自社株の相続税・贈与税を、要件を満たし続ける限り、猶予し続けてくれる制度です。

通常の制度(一般措置)では猶予対象が株式の3分の2までだったのが、特例措置では発行済み株式の100%が対象に。猶予される税額も、一般措置は80%だったのが、特例措置では100%になりました。

冒頭の社長のケースで言えば、9,000万円超の相続税が、条件を守り続ける限り「猶予されたまま」になります。実質的に、ほぼ払わなくて済む状態が続くのです。

要件と注意点を正確に理解しておく

当然ながら、制度を維持するには守るべき条件があります。主なものをざっと挙げると——

  • 後継者が代表者として会社を継続して経営すること
  • 猶予対象の株式を継続して保有し続けること
  • 雇用の80%以上を5年間維持すること(一定の緩和あり)

条件を満たせなくなると、猶予されていた税額と利子税を一括納付しなければなりません。この「取り消しリスク」を理解した上で、計画的に進めることが大切です。

また、制度を活用するには「特例承継計画」を都道府県に提出することが必要で、この申請自体にも手間と時間がかかります。

2027年12月末という期限を甘く見てはいけない

最も見落とされがちなのが、期限の問題です。

特例措置を使うには、2027年12月31日までに「相続または贈与」が実行されている必要があります。「まだ先のことだから」と思っている社長がたくさんいますが、特例承継計画の提出→後継者への株式移転→税務申告という手続きには、相応の時間がかかります。

今から動いても、余裕があるとは言えない時間軸です。

「自分はまだ元気だから大丈夫」ではなく、「健康なうちだからこそ動ける」というマインドが、事業承継では何より重要です。

まず「自社株がいくらか」を把握することから

税理士に相談する前に、自社株の評価額を把握できていない社長が意外と多くいます。毎年の決算書を持って、顧問税理士に「今の自社株の評価額を出してほしい」と一言聞くだけで、現状が見えてきます。

その数字を見て初めて、「さて、どう対策するか」の議論が始まります。

会社を次の世代に渡すのか、M&Aで売却するのか、廃業するのかという選択肢の中で、事業承継税制はあくまで「引き継ぐ」という選択をした場合の有力な道具のひとつです。どの道を選ぶにしても、選択肢を知った上で判断するのと、知らずに流されるのでは、結果が大きく変わります。

もし顧問税理士とこのテーマでまだ話したことがないなら、次の面談で必ず議題に上げてみてください。2027年12月という期限は、思っているよりずっと早く来ます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。