「先生、これって本当ですか」

埼玉の建設会社を経営する田中社長(63歳)は、税理士から試算書を渡されたとき、しばらく言葉が出なかったと話してくれました。息子への承継を考えて相談に行ったはずが、その場で現実の壁に直面することになったのです。

「1億5,000万を払って、それで承継か」

田中社長が依頼したのは、自社株の評価と相続税の試算でした。創業30年超、地元では安定した実績を持つ建設会社です。「うちの株はそんなに高くないだろう」と思っていたそうですが、出てきた数字は約3億円。そのまま相続が発生した場合の相続税は、約1億5,000万円という試算でした。

息子に会社を継いでもらうために、まず1億5,000万を用意しなければならない。その現実に、田中社長は絶句したのです。

実は、こういう話は珍しくありません。業歴が長く、利益を積み上げてきた会社ほど、純資産方式や類似業種比準方式で評価すると、経営者の体感より大幅に高い数字が出ることがあります。「問題ない」と思っていたのに、試算してみて青ざめる社長は少なくないのです。

2027年末までの「特例措置」を使う

田中社長が活用したのが、事業承継税制の特例措置です。

簡単に言うと、後継者に株式を生前贈与した場合、一定の要件を満たすと贈与税が猶予され、最終的に実質免除になるという制度です。通常、3億円の株式を贈与すれば莫大な贈与税がかかりますが、この特例を使うことで、実質的な税負担をゼロに近づけることができます。

田中社長もこの制度を適用した結果、相続税・贈与税の実質負担はゼロになりました。息子さんは重い税の荷物を背負わずに会社を引き継げることになったのです。

見落とせない「2027年末」という期限

ただし、この特例措置には絶対に押さえておきたい期限があります。

特例承継計画の申請期限が2027年12月31日です。この日までに都道府県知事への申請と認定が必要で、期限を過ぎると通常の一般措置しか使えなくなります。一般措置は特例に比べて適用できる株数や猶予割合に制限があり、効果が大きく下がります。

「まだ2年以上ある」と思うかもしれませんが、準備に1〜2年かかるケースがほとんどです。認定経営革新等支援機関(税理士や一部の金融機関など)との相談、計画書の作成、都道府県への申請と認定取得——それぞれにリードタイムがあります。今から動き始めてちょうどいいくらいのスケジュール感です。

適用要件は「厳しそうで、実は多くの会社が満たせる」

事業承継税制には適用条件があります。主なポイントを挙げると、認定支援機関の指導・助言を受けること、後継者が一定期間にわたって代表者として経営すること、そして雇用の8割以上を5年間維持することなどです。

「うちには難しそう」と感じた方もいるかもしれませんが、田中社長も最初は同じことをおっしゃっていました。実際に税理士と一緒に条件を整理してみると、要件をすべて満たしていることが確認できたそうです。

雇用維持の要件も、直近の税制改正で一定の緩和が入っており、以前より使いやすくなっています。「ダメかもしれない」と諦める前に、一度専門家に確認することを強くおすすめします。

動き出すのは「早ければ早いほどいい」

事業承継の税対策は、「考え始めたときには手遅れ」になりやすい分野です。相続が発生してから打てる手は限られますが、生前に計画的に動けば、今回のような強力な制度を最大限に活用できます。

まず「自社の株価はいくらか」を把握することが、すべての対策の出発点です。試算してみて初めて、問題の大きさとやるべき対策が見えてきます。

2027年末の期限まで、カレンダーを見れば分かる通り、思っているより時間はありません。承継を考えているなら、今期中に一度、専門の税理士に試算を依頼してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。