「そろそろ息子に会社を渡そうと思っているんですが、税務調査だけが怖くて……」

先日、創業28年の建設会社を経営する社長から、こんな相談を受けました。事業承継は経営者人生の集大成ともいえる大仕事です。ところが、この局面は税務署が最も注意深くチェックするタイミングでもあります。

株価を操作する誘惑が生まれやすく、相続・贈与税の課税漏れが発生しやすい——税務署はそれをよく知っています。今日は、実際に調査を招きやすい3つの条件をお伝えします。

第3位:承継直前だけ、不自然に赤字になる

事業承継を前にして、「少しでも株価を下げておきたい」と考える社長は少なくありません。利益を圧縮すれば株価が下がり、後継者への株式移転コストが減る——その発想自体は理解できます。

ただし、売上がほぼ変わっていないのに承継前の1期だけ利益が急減すると、税務署の目には「不自然」に映ります。架空経費の計上や、私的な費用の会社計上を疑われるのです。

税務署は申告書を見るとき、過去3〜5年分の推移を横並びで確認します。なだらかな流れの中に突然の谷があれば、そこが調査の起点になります。直前期の経費積み増しは、通常の節税よりもリスクが格段に高いと心得てください。

第2位:家族間での株式の「安すぎる」譲渡

「息子に渡すんだから、少し安くてもいいよね」——この感覚が、思わぬ課税を呼び込みます。

時価より大幅に安い価格で後継者に株式を譲渡すると、差額が「贈与」とみなされ贈与税が発生するケースがあります。たとえば相続税評価額5,000万円の自社株を500万円で譲渡した場合、差額4,500万円に対して最高55%の贈与税が課される計算になります。

「売買契約書があるから贈与じゃない」と思っている方もいますが、税務署は形式より実態で判断します。適正な株価をきちんと算定し、その根拠を残しておくことが不可欠です。自社株の評価は会社の規模や業種によって計算方法が異なるため、承継を検討し始めたら早めに専門家に依頼することをおすすめします。

第1位:役員退職金の「過大計上」

これが最も調査リスクが高い項目です。

先代社長が退職するタイミングで退職金を支払うと、その分が損金になって株価が下がります。後継者への株式移転コストを下げるための合法的な手法として、広く使われています。問題は「どこまでが適正か」という線引きです。

税務上、役員退職金の適正額は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」で計算します。社長の場合、功績倍率の目安は3.0倍とされています。ただしこれは法律で定められた上限ではなく、あくまで過去の判例・裁決例から積み上げられた目安です。

3.0倍を大幅に超える退職金を計上すると、税務署は「株価を下げるための操作では」と判断し、超過部分を損金不算入とする可能性があります。功績倍率の根拠となる資料——在任期間中の業績、会社への貢献度、同業他社との比較——を丁寧に整備しておくことが、調査が入ったときの最大の防御になります。

備えは「2〜3年前」から始める

3つの条件に共通するのは、「直前に慌てて動くと不自然さが際立つ」という点です。承継の2〜3年前から計画的に準備を進めることで、税務調査のリスクを大幅に下げることができます。

株価の推移を自然な形でコントロールする、適正な退職金額を早めに試算しておく、後継者への移転スキームを段階的に設計する——これらはすべて、時間をかけて「合理的な説明ができる状態」を作る作業です。

事業承継は一度きりの大きな決断です。税務調査が入っても堂々と説明できる準備を、今のうちから始めてみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。