先日、長野県で建設業を営む60代の社長から、こんな相談を受けました。「顧問税理士から『退職金は3,000万円が妥当です』と言われたんですが、それって本当に正しいんでしょうか」と。
話を掘り下げてみると、役員退職金の設計にまだまだ大きな余地が残っていることがわかりました。やり方次第では、同じ条件でも退職金は倍近くまで引き上げられるのです。
今日は、多くの社長が知らないまま損をしている「役員退職金を増やす3つのポイント」についてお伝えします。
退職所得控除を最大限に使い切る
まず知っておいてほしいのが「退職所得控除」の仕組みです。退職金は給与と違い、税制上の優遇措置が非常に手厚い所得です。
勤続20年以下の場合、控除額は年40万円ずつ積み上がります。ところが20年を超えると、年70万円ずつに増加します。つまり勤続30年であれば控除額は1,500万円になります。
さらに退職所得の計算では、控除後の残額を2分の1にしてから課税するという特例があります。たとえば退職金3,000万円・控除額1,500万円なら、課税対象はわずか750万円。同じ金額でも、給与として受け取るより税負担が圧倒的に軽いのです。
ここで重要なのが「引退のタイミング」です。勤続29年11ヵ月と勤続30年とでは、控除額が最大70万円違います。それが最終的な手取りの差に直結するため、退職のタイミングを1年単位で慎重に考えることが節税の第一歩です。
退職金の計算ベースとなる「役員報酬」を事前に設計する
退職金の計算式をご存知でしょうか。税務上の適正退職金は、一般的に次のように計算されます。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
この式を見れば、最終報酬額が高いほど退職金の計算ベースが大きくなることがわかります。つまり、退職前の数年間に報酬体系を見直すだけで、退職金の総額が大きく変わるのです。
たとえば月額報酬が50万円の場合と70万円の場合とでは、勤続30年・功績倍率3倍の条件で計算すると退職金の差は2,160万円にもなります。報酬額の違いだけで、これだけの差が生まれます。
ただし注意点があります。退職直前に急激に報酬を引き上げると、税務署から「退職金の水増しが目的では」と指摘を受けるリスクがあります。計画的に、数年かけて段階的に引き上げていくことが重要です。この設計は早めに顧問税理士と相談しておくのが得策です。
「功績倍率」の正しい理解が退職金を最大化する
3つのポイントのうち、最も見落とされがちなのが「功績倍率」の活用です。
代表取締役の場合、功績倍率は2〜3倍が認められるケースが多いとされています。ところが多くの社長は「3倍にしたら税務署に怒られる」と思い込み、2倍以下に設定してしまっています。
実は、功績倍率に法定の上限はありません。2〜3倍というのはあくまで税務上の「目安」であり、根拠となる資料を適切に整えれば、適正な倍率で退職金を最大化できます。
根拠資料とはたとえば、会社の業績推移と社長の貢献実績、同業他社との比較データ、株主総会の議事録、役員退職金規程などです。これらを丁寧に整備することで、功績倍率の正当性を税務上で説明できるようになります。
逆に言えば、根拠なく高い倍率を設定するのは論外です。大切なのは「なぜこの倍率なのか」を説明できる状態にしておくこと。そのための準備を退職の数年前から始めるのが理想です。
まず「役員退職金規程」の整備から始めよう
これら3つのポイントに共通しているのは「準備が早ければ早いほど有利になる」という点です。
退職金の制度が整っていない会社では、いざ退職しようとしても税務上の根拠が弱く、適正額の認定が難しくなることがあります。役員退職金規程がまだない会社は、今期中に整備しておくのが得策です。
退職金の設計は、決算間際や退職直前に慌てて考えるものではありません。5年・10年単位の長期視点で報酬体系・退職時期・功績倍率の根拠をコツコツ積み上げることが、最終的に手元に残る金額を大きく左右します。「まだ先の話だから」と後回しにしている社長こそ、今すぐ顧問税理士に一度相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。