先日、こんな相談を受けました。

「社長、相続税の対策ってしてますか?」と聞いたら、「うちはそんなに資産ないから大丈夫ですよ」とあっさり返ってきた。年商4億の製造業を20年以上経営されている方です。

自社株の評価額を試算してみると、4億2,000万円。法定相続人はお子さん2人。シミュレーションすると相続税は約1億3,000万円という数字が出ました。社長は言葉を失っていました。「自社株に相続税がかかるなんて、考えたこともなかった」と。

内部留保が積み上がった会社ほど危ない

長年まじめに経営してきた会社ほど、内部留保はしっかり積み上がっています。そしてその分、自社株の評価額も高くなる。

非上場の中小企業でも、純資産が大きければ「純資産価額方式」で評価されるケースがあります。これは会社の純資産をそのまま株価に反映させる方法で、含み益も加算されます。帳簿上の数字より大幅に高い評価額になることが珍しくありません。

業績が良い会社ほど、この問題は深刻です。「いい会社にしよう」と頑張ってきた結果が、相続税という形で後継者に重くのしかかる——これが多くの中小企業オーナーが直面している現実です。

相続税1億3,000万円は「特別な話」ではない

具体的な数字で考えてみましょう。

自社株の評価額が4億円と試算された場合、法定相続人が2人なら基礎控除は4,200万円。課税遺産総額は3億5,800万円になります。税率を当てはめると、相続税の総額は1億3,000万円を超えます。

年商3〜5億円規模の会社を20〜30年経営してきた社長であれば、このような状況は十分ありえます。決して一部の富裕層だけの話ではありません。

非上場株は「売れない」という落とし穴

相続税の怖さは金額だけではありません。

上場株なら証券会社で売れば現金になります。でも自社株は違います。売却先を自分で探さなければならず、定款の制限もあり、そもそも外部に売れないケースも多い。

その結果、相続した後継者は個人資産から1億円以上を捻出して納税しなければならない状況に追い込まれます。個人資産が足りなければ、会社を売却するか、会社から多額の役員報酬をもらって納税するか——どちらも経営に大きな影響を与えます。

「税金を払うために会社を売ることになった」という話は、決して他人事ではありません。

事業承継税制の特例措置という選択肢

では、今からでも動けることはあるのか。

まず知っておきたいのが事業承継税制の特例措置です。後継者への自社株の贈与・相続について、要件を満たせば贈与税・相続税が猶予される制度です。うまく活用できれば、税負担を大幅に軽減できます。

ただし、この特例措置には申請期限があります。贈与・相続の適用期限は2027年12月末。期限を過ぎると、この特例の枠組みでの利用はできなくなります。

また、適用には一定の要件があり、途中で要件を外れると猶予が取り消されるリスクもあります。「使えそう」と思ったら、まずは専門の税理士に現状を相談して、自社が要件を満たせるか確認することから始めましょう。

他にも、株価を下げるタイミングでの生前贈与、持株会の活用、退職金を使った純資産の圧縮といった方法を組み合わせることもできます。どの方法が合うかは会社の規模・業績・後継者の状況によって全く異なるため、自社の状況に合った設計が重要です。

「まだ早い」と思ったときが、動き時

相続税対策の難しさは、相続が起きてからでは遅い点にあります。生前に計画的に株価を引き下げておく、贈与をしておく、承継計画を組んでおく——これらはすべて時間がかかります。

「もう少し業績が安定してから」「子供がもう少し大きくなってから」と先延ばしにしているうちに、使える手が減っていきます。

まず自社株の評価額を試算することから始めてみてください。「今の自社株がいくらか」を知るだけで、リスクの全体像が変わります。顧問税理士に「相続税のシミュレーションをしてほしい」と一言伝えるだけで動き出せます。今期中に動くことをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。