「相続税って、いったいいくらかかるんでしょう……」
先日、愛知県で食品卸業を営む67歳の社長から、そんな相談を受けました。息子さんへの事業承継を意識しはじめ、顧問税理士に試算を依頼したところ、返ってきた数字を見て言葉を失ったそうです。
試算額は、約6,000万円。
「こんな金額を納税したら、息子に会社を残してやれない」と、本気で悩まれていました。でも、結論からお伝えすると、それから2年後、この社長の相続税はゼロになりました。魔法でも、グレーな手法でもありません。顧問税理士と二人三脚で、合法的な3つの打ち手を順番に実行しただけです。
第一歩:法人で生命保険に加入し、非課税枠を確保する
まず取り組んだのが、法人名義での生命保険への加入です。
相続が発生したとき、相続人が受け取る死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」という非課税枠があります。この社長のケースでは法定相続人が3人いたため、1,500万円分を丸ごと非課税で受け取れる設計にしました。
生命保険には「相続財産を圧縮する」と「残されたご家族の手元現金を確保する」という2つの効果があります。相続税の納税資金を確保しながら課税財産を減らせる、承継対策の入り口として最も使いやすい手段のひとつです。
第二歩:暦年贈与で、毎年コツコツ財産を移す
次に活用したのが、毎年110万円の基礎控除を使った暦年贈与です。
贈与税には年間110万円の非課税枠があります。この社長は子ども2人に毎年110万円ずつ贈与し、2年間で合計440万円の財産を税金ゼロで移転しました。
「440万円程度で、6,000万円の相続税に効くの?」と思われるかもしれません。贈与の効果は金額だけで語れるものではなく、財産総額が減ることで税率が下がり、複数の対策と合わせると雪だるま式に効いてきます。積み重ねが大切な手段です。
ひとつ注意点があります。2024年の税制改正で、贈与から相続までの財産持ち戻し期間が従来の3年から7年に延長されました。暦年贈与は「早く始めるほど有利」になっており、承継を意識した瞬間がスタートラインだと考えてください。
第三歩:自社株の評価額を計画的に引き下げる
そして3つのステップのなかで、最も効果が大きかったのが自社株評価の引き下げです。
中小企業オーナーにとって、相続財産の大部分を占めるのが「自社株」です。会社が黒字で純資産が厚くなるほど、株の評価額は上がります。つまり、会社を大切に育てるほど相続税負担も増えるという、経営者にとって理不尽な構造があります。
自社株の評価を下げる方法は複数あります。適切なタイミングでの設備投資、役員退職金の活用、持株会社スキームの導入など、会社の規模や財務状況によって打ち手は異なります。この社長の場合は、設備投資と役員報酬の見直しを組み合わせ、2年をかけて評価額を大幅に圧縮することができました。
3つを組み合わせることで、初めて効果が出る
それぞれの対策が単独では小さく見えても、3つを組み合わせた結果、試算された相続税は6,000万円からゼロになりました。これが相続税対策の本質です。点ではなく、面で攻める。
最も大切なのは、「承継を意識し始めたとき」が対策のスタートラインだということです。相続が発生してからでは打てる手が極端に限られます。特に自社株の評価引き下げは、数年単位の時間が必要です。
もしまだ相続や承継について税理士と本格的に話し合ったことがないなら、今期中に一度、試算だけでも依頼してみてください。2年、3年という準備期間が、結果を大きく変えます。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。