先日、ある製造業の社長(60代)からこんな相談を受けました。「息子に会社を渡したのに、なぜかうまくいかない。取引先からも社員からも、いまだに私に連絡が来るんです」。
聞いてみると、名刺上の社長は息子さん。でも実態は、前社長がほとんどの意思決定に関わり続けている——という状況でした。
事業承継に失敗した後継者の割合は、3年以内で約70%。この数字を初めて聞いたとき、正直かなり衝撃でした。でも現場を見ていると「ああ、だからか」と納得してしまう落とし穴が3つあります。
3位:「名前だけ社長」が生む混乱
肩書きを渡しただけで、前社長が意思決定の場に居続けるケースです。
表向きは代替わりしているのに、重要な商談や採用には前社長が登場する。すると社員や取引先は「本当の決定権はどっちにあるんだ?」と混乱し、後継者への求心力が失われていきます。
承継は「権限の移譲」がセットです。名刺を変えるだけでなく、意思決定の場から前社長が一歩引く勇気が問われます。形だけの代替わりは、後継者にとって最も孤独な状況を生みます。
2位:自社株の税負担、見積もっていますか?
「うちの会社に株価なんてないでしょ」と思っている社長、実は非常に危険な状態です。
中小企業でも、業績が安定していれば自社株の評価額は億単位になることがあります。それを子どもや後継者に渡す際、贈与税・相続税が数千万〜数億円規模で発生するケースも珍しくありません。後継者が「会社を引き継いだら、まず税金の支払いで詰んだ」という話は、決して他人事ではないのです。
対策として有効なのが「事業承継税制(特例措置)」です。要件を満たせば、後継者が負担すべき贈与税・相続税の納税を猶予・免除できる制度で、令和9年(2027年)3月末までに都道府県への申請が必要です。
株価の現状評価と税負担のシミュレーションは、早めに専門家と確認しておくことをおすすめします。業績が高い今こそ、打てる手が多い時期です。
1位:後継者育成に「時間が足りない」
これが最も多く、最も深刻な落とし穴です。
理想的な引継ぎ期間は5〜10年。財務・人事・取引先との関係構築・組織マネジメント——これだけのことを身に付けるには、相応の時間がかかります。
ところが現実は、多くの場合「体調が悪くなってから」「急に気が変わって」という形で、2〜3年での承継になってしまう。短期間で渡された後継者は、孤立無援のまま舵を取ることになり、3年以内に撤退するパターンが最も多いのです。
「まだ元気だから大丈夫」——その言葉が、一番のリスクです。
今日からできる一歩
承継の準備は、社長が60代に入ったタイミングで始めるのが理想です。特に株価対策は、業績が上向いている今こそ着手すべきです。評価額が高くなってからでは、打てる手が少なくなります。
事業承継税制の申請期限(2027年3月末)も迫っています。「自社の株価がいくらか」「後継者への税負担がどの程度か」だけでも、一度専門家に確認してみてください。
まだ後継者を決めていない方も、「誰に渡すか」より先に「いつから育てるか」を考えることが、承継を成功させる最初の一歩です。準備は、早すぎるということはありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。