先日、ある製造業の社長からこんな話を聞きました。
「うちの父が急に倒れてね。会社は黒字で順調なんだけど、相続の手続きを始めたら税理士に『このままだと会社を売るか廃業するしかないかもしれない』と言われて」
売上5億、従業員20名。地域に根付いた優良企業です。それでも、相続という一つの出来事で、会社の存続が揺らいでしまう。これは決して他人事ではありません。
会社が成長するほど、相続税が重くなる
オーナー社長が亡くなると、保有している自社株に相続税がかかります。問題は、この税率が最大55%にも達するという点です。
会社の業績が良ければ良いほど、株式評価額は上がります。そして評価額が上がれば上がるほど、相続税の負担も雪だるま式に膨らんでいきます。
たとえば、自社株の評価額が3億円の場合。相続税は1億円を超えるケースもあります。会社の帳簿には「3億円の資産」と書いてあっても、それはすぐに現金化できるものではありません。土地や設備、のれん……どれも売ってしまえば会社が回らなくなるものばかりです。
現金がなければ、選択肢は二つしかない
相続税の納付期限は10ヶ月です。その間に、何億円もの現金を用意しなければならない。
もし用意できなければ、選択肢はほぼ二つに絞られます。
一つは、株式を売却すること。ただし中小企業の株を買ってくれる相手を短期間で探すのは容易ではありません。M&Aという形になれば、経営の主導権が他者に移ってしまうことも覚悟しなければなりません。
もう一つは、廃業。代々受け継いできた会社、育ててきた従業員との関係、長年付き合ってきた取引先……それがすべて、税務署への支払いという形で終わりを迎える。
これが「相続で会社が消える」という現実です。
2027年末という、見逃せない期限
ただし、この問題には強力な解決策があります。
「事業承継税制の特例」と呼ばれる制度で、一定の要件を満たして申請すれば、自社株に対する相続税や贈与税を最大100%猶予することができます。払わなくていい、ではなく「猶予」ですが、後継者が会社を継ぎ続けることで最終的に免除になる仕組みになっています。
重要なのは期限です。この特例を受けるには、2027年12月31日までに「特例承継計画」を都道府県知事に提出しなければなりません。残り時間は約1年半。十分あるように見えて、計画書の作成・専門家との調整・都道府県への申請には想像以上に時間がかかります。
「うちはまだ早い」が一番怖い
事業承継を後回しにしてしまう社長の多くが、こう考えています。「自分はまだ元気だから」「息子はまだ若いから」「会社がもっと大きくなってから考えよう」。
しかし相続は、いつ発生するかわからないイベントです。準備が整っていない状態で突然起きた場合、残された家族が短期間で莫大な税金を工面しなければならない。それは、会社という器だけでなく、家族関係までも壊してしまうことがあります。
「もう少し後で」が許されないのが、事業承継というテーマの本質です。
まず「自社株がいくらか」を知ることから始める
対策の第一歩は、現状把握です。自社株の評価額がいくらなのか、それに対して相続税がいくらかかるのか。この数字を知らないまま動いている社長が、思いのほか多いものです。
税理士に依頼すれば、自社株の概算評価額と相続税額のシミュレーションは比較的短期間で出てきます。数字を見て初めて「これは早急に動かないといけない」と実感される方がほとんどです。
2027年末の期限まで、まだ間に合います。ただし「まだ間に合う」と「余裕がある」は別物です。特例承継計画の申請に向けた準備を、今から始めることを強くおすすめします。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。