先日、3月決算の建設会社を経営する社長からこんな相談が来ました。
「顧問の先生から『退職金を今期中に積みませんか』と言われたんですが、2000万円も出して本当に得するんですか?」
得します。しかも、法人側と個人側の両方で。今日はその仕組みを、数字を使いながら丁寧に説明していきます。
3月末までに払うと、680万円の差が生まれる理由
退職金は「支給した期」に損金として計上できます。つまり、3月31日までに役員退職金を支払えば、その金額がそのまま今期の費用として落ちる。
2000万円を損金に算入した場合、所得800万円超の法人に適用される実効税率はおおむね34%前後。計算すると680万円の法人税が浮く計算になります。
これが4月1日になれば、節税効果は来期分に繰り越されるだけ。「いつ払うか」が、680万円の差をつくるのです。
受け取る社長側も、役員報酬より圧倒的に有利
「2000万円もらったら所得税が大変なことになるんじゃ……」と思う方も多いのですが、退職金には非常に優遇された課税ルールがあります。
まず「退職所得控除」が使えます。勤続20年であれば控除額は800万円。2000万円から800万円を引いた1200万円、さらにその半分の600万円だけが課税対象です。
同じ2000万円を毎年の役員報酬として受け取ると、全額が給与所得として課税されます。退職金という形を選ぶだけで、手元に残る金額がまったく変わってくるのです。
「いくらまで積んでいいのか」功績倍率の考え方
退職金に法律上の上限はありませんが、税務上「過大」と判断されると、一部が損金として認められないリスクがあります。
実務で使われる計算の基本はこれです。
最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率
功績倍率は2〜3倍以内が「否認されにくい目安」とされています。法律で決まった上限ではなく、裁判例や実務慣行をもとにした目線です。
月額報酬100万円・勤続15年・功績倍率3倍なら、4500万円が計算上の上限目安。この式に当てはめて設計された金額は、税務調査でも根拠を説明しやすくなります。
「退職金2000万円」という数字は上記の式でどこに収まるか、事前に試算しておくのがポイントです。
払えば終わりではない。3つの手続きが必須
金額だけ丁寧に設計しても、手続きが抜けると全額が否認されることがあります。実務上、必ず確認してほしい3点があります。
ひとつ目は退職の事実。名目だけ退職して実態は経営に関与し続けると、退職金として認められません。役員としての地位や業務関与の実態が変わる必要があります。
ふたつ目は株主総会の決議。3月末までに支給するなら、それ以前に支給額を決議しておく必要があります。決算後に遡って決議しても、支給日の期の損金にはなりません。
三つ目は議事録の保管。決議の証拠がなければ、後から税務調査が来たときに立証できません。日付・出席者・決議内容がきちんと記載された議事録を必ず残してください。
「払いさえすれば大丈夫」ではなく、退職の実態・決議・議事録の3点セットが揃ってはじめて、税務上の根拠になります。
3月決算の社長は「今週中」に動いてください
退職金の設計は、決算直前に動こうとすると間に合わないことが多い。株主総会の招集手続き、支給額の試算、退職後の体制整備——やることは意外と多く、時間がかかります。
まだ顧問税理士と話していないなら、今週中に「退職金の話をしたい」と連絡を入れてみてください。3月末まで動ける時間がある今が、唯一のタイミングです。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。