先月、ある建設業の社長からこんな連絡をいただきました。「決算まで2ヶ月を切ったんですが、今期は利益が想定以上に出てしまって……法人税が怖いんです」という相談でした。

このタイミングで使える手はいくつかありますが、なかでも「役員退職金」は、法人と個人の両方に節税効果をもたらす、数少ない手法のひとつです。しかも3月決算の会社にとっては、今期中が実質的なラストチャンスになります。

退職金は「今期の損金」にできる

役員が今期中に退職し、退職金を支払えば、その全額を今期の損金として計上できます。益金から直接引けるわけですから、利益が大きい年ほど効果が際立ちます。

法人の実効税率はおおむね30〜34%。仮に役員退職金が3,000万円なら、900万〜1,000万円程度の法人税が減る計算です。これは「繰り延べ」ではなく、実際の税負担が軽くなるということです。節税手法のなかでも、即効性という点では群を抜いています。

個人側にも「ダブル優遇」がある

法人側だけでなく、退職金を受け取る役員個人への課税も非常に有利な仕組みになっています。

まず「退職所得控除」という大きな非課税枠があります。勤続年数が20年以下なら1年あたり40万円、20年を超えた部分は1年あたり70万円が控除されます。たとえば勤続30年なら、800万円+70万円×10年で合計1,500万円が非課税枠になります。退職金がこの範囲に収まれば、所得税はゼロです。

さらに、控除後の残額は「2分の1」にして課税されます。これが退職所得の「1/2課税」と呼ばれるルールで、給与所得と比べると課税ベースが劇的に小さくなります。高い限界税率が適用されにくくなるため、所得税の実負担も大幅に下がります。

この法人側の損金算入と、個人側の退職所得優遇が組み合わさることで、法人税と所得税を合わせた節税効果が最大40%前後に達するケースもあります。

なぜ「今期が最後」になるのか

3月決算の会社であれば、今期の締めは3月末です。退職金を今期の損金に計上するには、今期中に「退職の事実」と「支払い」の両方を完了させる必要があります。

退職金支給には、株主総会や取締役会の決議書、退職届、退職金規程の整備など、複数の書類と手続きが必要です。2月末から動き始めても、準備が間に合わないことは珍しくありません。

「来期でもいい」と先送りにしていると、翌期には業績が落ちて節税効果が薄れてしまった、というのもよくある話です。利益が出ているこのタイミングを逃すと、同じ条件が揃うとは限りません。

「不相当に高額」には気をつける

ひとつ落とし穴があります。退職金は役員の貢献度・勤続年数・会社規模に照らして相当な額でなければ、超過部分は損金に算入できません。

計算の基準としてよく使われるのが「最終月額報酬×勤続年数×功績倍率」という算式です。代表取締役なら功績倍率3.0倍が一般的な目安とされています。この数字を大きく超えた金額を設定すると、税務調査で否認されるリスクがあります。退職金の設計は、必ず事前に顧問税理士と確認するようにしてください。

まず「いくら出せるか」を試算するところから

退職金の節税効果を最大化するには、法人の資金繰りとのバランスも重要です。退職金は原則として現金で支払うため、利益が出ていても現預金が不足していれば実行できません。

退職金の原資として生命保険の解約返戻金を活用する方法もあります。ただしこの場合、解約差益が益金に算入されるため、退職金との損益相殺が前提です。組み合わせ方を間違えると効果が半減するので、設計段階での試算が欠かせません。

3月決算の社長さんは、まず「今期の利益着地見込み」と「退職金として計上できる上限額」を税理士に確認してもらうことをお勧めします。動ける余地があるかどうかを把握するだけでも、大きな違いが生まれます。手続き期限まで時間は多くありません。心当たりがあるなら、今週中に動き出してください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。