先日、年商2億円ほどの建設会社を営むA社長から、こんな相談がありました。

「昨年の11月に役員報酬を月100万円増やしたんですが、決算で税理士にえらく怒られまして……」

話を聞くと、3月決算の会社なのに11月に役員報酬を変更していたとのこと。結果、増額分の計500万円が損金として認められず、約165万円もの法人税を余分に払うことになってしまったそうです。

「業績がよかったから、決算前に報酬を上げて節税できると思っただけなのに」とA社長は首をかしげていましたが、実はこれ、多くの社長がハマる典型的な落とし穴のひとつです。

役員報酬には「変更できるタイミング」が法律で決まっている

法人税法には「定期同額給与」というルールがあります。役員報酬は毎月同じ金額を継続して支払わないと損金(経費)として認められない、という規定です。

ただし、年に一度だけ変更できるタイミングがあります。それが事業年度開始から3か月以内です。3月決算の会社であれば、4月・5月・6月の間に変更するのが唯一のルートということになります。

これを過ぎてから変更すると、増額した分が「定期同額給与ではない」と判断され、損金不算入になってしまうのです。

なぜ11月の変更がアウトだったのか

A社長の会社は3月決算。事業年度は4月から翌年3月です。定期同額給与のルールに従うと、変更できるのは4〜6月のみ。ところが11月に増額したため、事業年度の途中で「変更」が発生したことになります。

この時点でルール違反となり、11月から期末の3月まで——5か月分の増額分、合計500万円が損金不算入になってしまいました。

損金不算入になると何が起きるか。法人税の計算上、その500万円が「なかったことにならない」ので、実効税率33%で計算すると約165万円の法人税が余計にかかります。社長個人の懐には入ったお金ですが、会社としては経費にできなかった——という二重のダメージです。

「業績が伸びたら報酬を増やせないのか」

そんなことはありません。ただし、増やすなら期首3か月以内に計画的に動く必要があります。

よくあるのが「上半期に業績が良かったから決算前にボーナス的に役員報酬を上げたい」という発想です。気持ちはよくわかるのですが、税法上はNGです。

業績が想定より伸びた場合の節税手段がないわけではありません。「事前確定届出給与」を使って役員賞与を支給するアプローチもあります。ただしこちらも事前の届出が必要で、思いつきで対応できるものではないので注意が必要です。

変更するときに押さえておきたいポイント

  • 変更できるのは事業年度開始から3か月以内(3月決算なら4〜6月)
  • 変更額は株主総会または取締役会の決議が必要
  • 変更以降は同額を毎月継続して支払うこと
  • 決算の数字が見えてきてから考えていては手遅れになることが多い

「4月になったら変えればいい」では落とし穴がある

4月になってすぐ変更すればOKかというと、そう単純でもありません。適切な手続き(株主総会の決議など)を踏まないまま実態だけ変更しても、税務調査で指摘されるリスクがあります。形式と実態をきちんと整えることが大前提です。

役員報酬の変更は、毎年2〜3月ごろから顧問税理士と翌期の方針を話し合い、4月の株主総会で正式に決議するのがベストプラクティスです。思い立ったが吉日ではなく、計画的な報酬設計こそが節税の王道です。

今年の業績が好調で「報酬を上げたい」と考えているなら、次の4〜6月に向けて今からシミュレーションを始めておくことをおすすめします。決算が近づいてから慌てても、打てる手は限られてしまいます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。