先日、静岡の製造業を営む社長からこんな相談を受けました。\n\n「息子に会社を譲るつもりで税理士に診てもらったら、“贈与税が1億5千万円かかります”って言われて……。なんとかなりませんか?」\n\n長年かけて育ててきた会社を、スムーズに次世代へ。そう思っていた矢先の一言が、社長を青ざめさせました。\n\n## 不動産を持つ会社の株価は「見えないところ」で膨らんでいる\n\n会社の株式を後継者に贈与するとき、その株価は純資産価額方式という計算方法で評価されることがあります。ざっくり言えば、「会社の正味の財産を積み上げて株価を算出する」方法です。\n\nここで問題になるのが、会社に不動産が入っている場合です。\n\n土地や建物に含み益があると、その一部が株価に上乗せされます。会社の資産が多ければ多いほど株価が高くなり、贈与税の計算ベースも膨らんでいく。不動産を持つ会社オーナーほど、この「見えない税負担」に気づかないまま承継を迎えてしまいがちなのです。\n\n## 5億円の不動産が、1.5億円の贈与税を生んだ\n\n先ほどの社長のケースでは、法人内に簿価で約5億円の不動産が計上されていました。\n\n純資産価額方式で含み益を加味して試算すると、株価は想定をはるかに超えた水準に。贈与税として1億5千万円という数字が出てきました。売上は好調で経営は安定している——それでも「承継のタイミングで現金が1.5億消える」という現実は、誰でも受け入れがたいはずです。\n\n## 5年前に動いた社長との「2億円の差」\n\n同じような製造業でも、5年前から準備を始めていた別の社長の話があります。\n\nこちらの社長は、承継を見据えて法人内の不動産を早い段階で切り出していました。土地・建物は相続税評価(路線価ベース)で算定すると時価の約60〜70%水準になることが多く、その評価の仕組みを活用した組み換えを行ったのです。\n\n結果として株価の評価水準が大幅に下がり、贈与税の試算も想定内に収まりました。最終的な税負担の差額は2億円超——。準備を始めたタイミングの違いだけで、これほどの差が生まれるのが事業承継の怖いところです。\n\n## 承継の節税は「5年前からの設計」が全て\n\n決算前の駆け込みで対応できる節税と、事業承継の節税は性質がまったく違います。不動産の組み換えや切り出しには、相応の時間と準備が必要です。\n\n会社法・税法上の手続き、融資の組み直し、評価替えのタイミングまで含めると、少なくとも3〜5年のスパンで動かないと間に合わないケースがほとんど。「そろそろ承継を考えようか」と思い始めたとき、実はすでにギリギリのタイミングだったりします。\n\nもう一点、注意してほしいのが「否認リスク」です。承継直前に駆け込みで動くと、税務調査で「承継のための恣意的な操作」と判断されるリスクが高まります。適切な事業目的を持ったうえで、余裕を持って動くことが鉄則です。\n\n## まず確認してほしい3つのこと\n\n不動産を持つ会社オーナーが事業承継を視野に入れているなら、まず以下を整理してみてください。\n\n- 法人内の不動産の帳簿価額と、時価・路線価評価がどのくらい乖離しているか\n- 自社株式を純資産価額方式で評価した場合の概算株価\n- 後継者への承継を予定している時期(5年以内なら今すぐ動くべき水準)\n\nこの3点を税理士と一緒に確認するだけで、「承継前にやるべきこと」がかなり具体的に見えてきます。\n\n不動産を持っているからこそ、承継コストが跳ね上がる——それは決して珍しいケースではありません。「うちの会社もそうかもしれない」と感じたなら、まだ時間がある今のうちに動き始めることを強くおすすめします。出口戦略は、早めの一手が全てです。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。