先日、息子さんへの事業承継を控えたある社長から、こんな電話が来ました。「税理士から『この3年間の処理、税務調査が来たら厳しいかもしれない』と言われたんですが、どういうことでしょうか」と。
話を聞いてみると、株価を下げようと決算前に経費を積み増し、売上の計上タイミングを調整していたとのこと。節税の意図があったとしても、そのやり方次第では調査官に目をつけられるリスクがあります。
事業承継は、相続税対策・株式評価・退職金設計など、複数の税目がからみ合う複雑なテーマです。そして税務署側も、承継のタイミングに合わせた不自然な処理を熟知しています。今回は、実際に調査で問題になりやすい3つのパターンをお伝えします。
3位:承継直前の「利益圧縮」
自社株の評価額を下げるために、株式の譲渡や贈与の直前に利益を意図的に減らすケースがあります。設備投資を前倒しで実行したり、役員報酬を急増させたり、売上の計上を翌期にずらしたりといった手法です。
ところが、調査官がまず確認するのは「直近3年間の数字の推移」です。承継直前の数年だけ利益が急減していれば、必ず理由を聞かれます。正当な事業上の理由があれば問題ありませんが、「株価を下げるため」という意図が透けて見える処理は、課税リスクが高まります。
自社株の評価方式のひとつである類似業種比準価額は、直前3年の平均利益を使って計算します。数字を意図的に操作した形跡があると、その計算自体を否認される可能性もあります。承継の3年以上前から計画的に動くのが鉄則です。
2位:役員退職金の「功績倍率オーバー」
先代社長が引退するタイミングで退職金を支給するのは、節税策として有効な手法のひとつです。しかし金額の設定を誤ると、法人と社長個人の両方に課税が追いかけてくることになります。
役員退職金の適正額は「最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率」で計算するのが基本です。この功績倍率が鍵で、実務上は2〜3倍の範囲に収めるのが目安とされています。3倍を超えると「過大退職金」と指摘されるリスクが高まり、超過分が損金不算入となって法人税が追徴されます。さらに、社長個人の退職所得の計算にも影響が出ることがあります。
「長年の経営への貢献が大きいから倍率を上げた」という主張が認められるケースもゼロではありませんが、それを裏付ける客観的な資料が必要です。経営実績の記録や、業績向上への具体的な貢献が確認できる書類を準備しておくことが、後々の調査対応を大きく左右します。支給前に税理士と金額の根拠を丁寧に整理しておくことをおすすめします。
1位:後継者への「低額株式譲渡」
調査で最も問題になりやすいのが、後継者への自社株を意図的に安く売るケースです。
株式の評価額を操作した上で、時価より低い金額で譲渡すると、その差額が「みなし贈与」として贈与税の課税対象になる可能性があります。自社株の評価には純資産価額方式と類似業種比準価額方式の2種類があり、税務署はどちらの方法でも時価を試算してきます。「こちらの計算方法なら評価額が低くなる」と一方に寄せようとしても、調査官はもう一方も当然チェックしています。
また、著しく低い価格での譲渡は、贈与税だけでなく、譲渡した側の所得税の計算にも影響することがあります。「現金を渡さず株で済ませた」つもりが、税金の総額では現金を渡した以上のコストになることもあるのです。
承継スキームは設計次第で節税効果が大きく変わりますが、それだけに税務リスクも高くなりがちです。「安くできる方法がある」という情報を鵜呑みにせず、全体の税負担を税理士と一緒に試算してから動くことが重要です。
事業承継の税務対策は、「有効な節税」と「調査で否認される処理」の境界線が非常に繊細です。うまく設計できれば何千万円もの節税効果がありますが、やり方を誤ると追徴税額がその何倍にも膨らむことがあります。
まだ承継の具体的なスケジュールが決まっていない方こそ、早い段階から税理士を交えた全体設計を始めることをおすすめします。3年後・5年後を見据えた準備が、結果として最も有利な承継を実現します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。