先日、ある経営者からこんな話を聞きました。「先代から引き継いで3年、ようやく会社が自分色になってきた——そう思っていたら、税務署から調査の連絡が来た」と。\n\n決して珍しいケースではありません。事業承継から3年前後というタイミングは、税務調査の「ひとつの山」になっているのです。なぜそうなるのか、そして実際に調査を受けた社長たちに共通していた落とし穴を、今日はお伝えしたいと思います。\n\n## 3億円の承継が「狙われる」理由\n\nある製造業の田中社長(仮名)は、30年かけて育てた会社の株式を、後継者である息子さんに贈与しました。自社株の評価額にして約3億円。顧問税理士に手続きをすべて任せ、書類も無事に整った——そのはずでした。\n\nところが承継から3年が経った頃、税務署から「実地調査にうかがいたい」という一本の連絡が入ります。\n\n結果として、追徴課税は800万円超。田中社長にとって、これは大きな誤算でした。\n\n税務署が動いたのは偶然ではありません。事業承継にかかわる一連の手続き——自社株の評価、役員退職金の計上、その後の資金の流れ——は、扱う金額が必然的に大きくなります。金額が大きければ、税務署の「重点チェックリスト」に入るのは当然の話です。しかも、申告から3年前後が経過したあたりで調査官が動くケースが多い。時効(原則5年)との兼ね合いで、税務署にも”タイミング”があるのです。\n\n## 調査が来た社長に共通する3つのパターン\n\n田中社長のケースを含め、承継後に税務調査を受けた社長たちの話には、共通するパターンがあります。\n\n株価算定の根拠書類が残っていない\n\n自社株の評価は、純資産価額方式や類似業種比準価額方式といった手法を組み合わせて計算します。問題は「なぜその評価額になったのか」の根拠が、あとから追えるかどうかです。\n\n計算書自体は作ってあっても、元になった決算書の明細や固定資産の内訳書が手元にない、というケースが実際に起きています。税務調査官は「この数字は本当に正しいか」を一から検証しようとします。資料が揃っていなければ、反論の手立てがなくなります。\n\n役員退職金の功績倍率に説明がつかない\n\n先代社長が退任する際に役員退職金を支払うのは、節税効果も高く、一般的な対策です。ただ、その分だけ税務署の目も厳しくなります。\n\n特に問題になりやすいのが「功績倍率」の根拠です。最終報酬月額×勤続年数×功績倍率という計算式を使いますが、倍率の決め方について「同業他社の事例を参考にした」という口頭の説明だけでは、調査官を納得させられません。どの情報源を使い、なぜその倍率が妥当なのかを示せる書類が必要です。この根拠が薄いと、退職金の一部を損金と認めてもらえないリスクが生じます。\n\n承継後の資金移動の記録が曖昧\n\n株式の贈与が完了したあとも、会社と個人のあいだで資金が動くことがあります。先代への貸付金の返済、法人から個人への金銭の流れなど、様々な局面があるはずです。\n\nこれらが「実は贈与だったのではないか」「法人税の対象になるのではないか」という疑念を生みやすい。なぜその資金が動いたのか、金額の根拠はどこにあるのか——そのつど記録する習慣がなかったというケースが、調査を受けた会社に目立ちます。\n\n## 調査は「準備した人が勝つ」ゲームです\n\n税務調査官は、否認できる根拠を探してきます。逆に言えば、こちらが明確な根拠を提示できれば、追徴を防げるケースは多い。書類の有無が、そのまま勝敗を分けます。\n\n承継が完了した段階で、最低限これだけは整備しておくことをおすすめします。\n\n- 株式評価の計算書類一式(評価時点の決算書・各種明細書を含む)\n- 役員退職金の功績倍率を決定した際の参考資料と判断メモ\n- 会社と個人間の資金移動に関する議事録・覚書・通帳コピー\n\n難しいのは、これらを「あとから揃えること」はほぼできないという点です。当時の書類がなければ再現できない。だからこそ、承継手続きが終わった直後に、まとめてファイリングしておくことが、3年後の自分を守る行動になります。\n\n## 「税理士に任せた」で終わらせないために\n\n顧問税理士にすべて任せているから大丈夫——そう思いたい気持ちはわかります。ただ、税理士に渡した資料が本当に揃っていたか、評価の根拠をきちんとファイルに残してもらっているかは、社長自身でも一度確認してみてほしいのです。\n\n承継後の税務調査は、備えのある会社とそうでない会社では結末がまったく違います。もし承継から1〜3年以内という方は、今一度、当時の書類と資金移動の記録を引っ張り出して確認しておくことをおすすめします。何もなければそれで安心、何か気になることがあればすぐに税理士に相談する——それだけで、800万円の追徴課税を避けられる可能性は十分あります。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。