先日、ある建設会社の社長から相談を受けました。\n\n「親父から会社を引き継いで3年。ようやく落ち着いてきたと思ったら、税務署から連絡が来て……」\n\n事業承継のタイミングは、税務調査の格好の標的になりやすい時期です。多額の資産が動き、株式評価に関する複雑な計算が絡み、「見逃しやすいポイント」が集まる。税務署も当然、そこに目を光らせています。\n\n今回は、実際によく起きる3大危険パターンを、具体的な数字を交えながらお伝えします。\n\n## 第3位|名義株の整理漏れ\n\n「え、うちには関係ない話でしょ」と思った社長、少し待ってください。\n\n創業期に「出資比率を分散させよう」と、家族や友人の名義で株を引き受けてもらったことはありませんか? 当時は良かれと思っての判断でも、その株が整理されないまま承継のタイミングを迎えると、話がこじれます。\n\n税務署の目には、それが「名義株」——実質的には創業者のものを他人名義にしていた株——に映ります。承継時に整理しようとすると、「過去にその株を贈与していたのでは?」と認定されて、追徴課税のリスクが生まれるのです。\n\n調査の遡及期間は原則5年ですが、「意図的な隠蔽があった」と判断されると、一気に7年まで延びます。古い話だからと油断していると、思わぬ額の追徴が来ることがあります。承継前に弁護士・司法書士と連携して、名義株の整理を済ませておくのが鉄則です。\n\n## 第2位|役員退職金の功績倍率オーバー\n\n「先代への退職金を手厚くしてあげたい」という気持ちは自然です。でも、その”手厚さ”に税務上の上限があることを知らないと、大きな落とし穴に落ちます。\n\n役員退職金の損金算入が認められる金額の一般的な目安は、最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率(2〜3倍)です。たとえば月額100万円、在任30年なら、3,000万〜9,000万円の範囲が「適正」とみなされやすいラインになります。\n\nこれを大幅に超えると「過大退職金」と判定され、超過分は損金不算入になります。つまり、退職金として払ったのに、その分は税務上の経費として認められない。払い損になってしまうわけです。\n\n功績倍率の「適正水準」は業種・規模・在任期間によっても変わります。「3倍にしておけば大丈夫」という思い込みが危険で、事前に税理士と数字をしっかり詰めておくことが不可欠です。\n\n## 第1位|自社株の評価申告ミス\n\nこれが最大の落とし穴です。\n\n自社株の承継では、株式評価を低く抑えて贈与税・相続税を少なくしようとする動きが出やすい。「合法的な節税」のつもりが、申告のやり方次第で「脱税」と認定されることがあります。\n\n意図的な低評価申告は重加算税の対象です。税率は35%(無申告なら40%)——元の税額にそのままのしかかってきます。実際に追徴課税が2,000万円を超えるケースも珍しくありません。会社の承継を成功させたのに、税務調査で経営が揺らぐ。これほど悔しいことはないでしょう。\n\n自社株の評価方法(類似業種比準価額、純資産価額など)は複雑で、計算の根拠資料の整備が不可欠です。「これくらいで大丈夫だろう」という感覚的な判断は禁物。評価の根拠をきちんと文書化したうえで申告することが、税務調査に耐えられる唯一の準備になります。\n\n## 調査が来る前に、今できること\n\n事業承継の税務調査は、「承継直後」よりも「数年後」に来るケースが多い印象です。時間が経つほど記憶も書類も薄れ、反論が難しくなります。\n\n今の時点でチェックしておきたいのは、この3点です。\n\n- 名義株の整理と株主名簿の一致確認\n- 役員退職金の計算根拠・取締役会議事録の整備\n- 自社株評価の根拠資料の文書化\n\n承継を検討し始めたタイミング、あるいは承継直後——このどちらかで、税理士と一度「税務調査リスクの棚卸し」をしておくことを強くおすすめします。何年も経ってから発覚するより、今のうちに整理しておく方が、対処のコストも精神的な負担もはるかに小さくなります。\n\n事業承継は、正しく設計すれば大きな節税になります。ただしそれは、「税務署に説明できる根拠がある」場合に限ります。その一線を越えないための伴走者として、専門の税理士を早めに活用してください。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。