先日、3月決算の製造業の社長からこんな連絡が来ました。「今期、利益が想定より大きく出そうで、このままだと税金がえらいことになります。今からできることはありますか?」

こういった相談、3月が近づくと毎年増えます。そして私がまず確認するのが、「退職金の積み立てはどうなっていますか?」という一点です。

法人税「33%の壁」をどう超えるか

会社の所得が800万円を超えると、法人税の実効税率は一気に33〜34%の水準になります。利益が1,000万円出れば、そのうち330〜340万円が税金として消えていく計算です。

「頑張って稼いだのに、3分の1以上を税金で持っていかれるのか」と感じた社長は多いはず。でも、その利益をどう使うかによって、税負担は大きく変わります。

そのなかでも特に効果が大きいのが、役員退職金の活用です。

退職金が「節税の切り札」になる仕組み

役員に退職金を支給すると、その金額は会社の損金(経費)として計上されます。退職金を積んだ分だけ、今期の課税所得が圧縮されるわけです。

しかし、メリットはそれだけではありません。受け取る役員本人にとっても、退職金は税制上の優遇が手厚い。

退職所得の課税計算はこうなっています。

(退職金の金額 − 退職所得控除額)× 1/2 = 課税される退職所得

「退職所得控除」で大きく引いたうえに、さらに1/2しか課税されない。この二重の恩恵が、退職金を節税手段として際立たせています。

勤続20年なら、控除だけで800万円

退職所得控除の金額は勤続年数で決まります。勤続20年以下であれば1年あたり40万円(最低80万円)、20年を超えた部分は1年あたり70万円が加算されます。

勤続20年ちょうどであれば、控除額はちょうど800万円。退職金が800万円以下なら、課税所得はゼロです。

勤続30年なら、800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円の控除になります。仮に退職金が2,000万円だとしても、課税されるのは「(2,000万円 − 1,500万円) × 1/2 = 250万円」だけ。

会社に利益を残して法人税を33%払い続けるより、退職金として個人に渡した方が圧倒的に有利なケースは、現実にはとても多いのです。

3月決算の社長、今が本当にギリギリです

ここで、多くの社長が見落としている重要な制約があります。

役員退職金は「支給が確定した日の属する事業年度」に損金計上されます。3月決算の場合、今期の節税として使うには、3月31日(決算日)までに株主総会で退職金の支給額を決議し、確定させる必要があるのです。

4月1日に決議してしまうと、損金計上できるのは翌期。今期の節税効果はゼロになります。

「検討中です」という状態では、もう時間がありません。今すぐ顧問税理士と話を進める必要があります。

動く前に確認しておきたい3つのこと

ひとつ目は、退職金の金額が「不相当に高額」と税務署に判断されるリスクです。適正額の算定には、役員の在任年数・最終報酬月額・功績倍率を使った「功績倍率法」が一般的に使われます。根拠のない金額では損金算入が否認される可能性があります。

ふたつ目は、資金繰りへの影響です。退職金の支給には当然まとまった資金が必要です。手元資金で対応できるか、事前に確認しておきましょう。

三つ目は、「退職」の実態です。完全に退任するのか、役割を大幅に縮小する「分掌変更」による退職金なのかによって、税務上の扱いが変わります。この判断はケースバイケースで、顧問税理士と慎重に進めてください。

今の判断が、今期の納税額を決める

3月決算の社長にとって、今この時期は1年でもっとも「節税の選択肢が狭くなっていく」タイミングです。退職金の積み立ては、効果が大きい一方で決算日という明確な締め切りがある施策です。

「今期は利益が出そうだ」と感じているなら、まず顧問税理士に連絡してみてください。動ける時間は、まだあります。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。