先日、売上10億円規模の建設業を経営されている社長とお話ししたとき、こんなことをおっしゃっていました。「退職金は毎月会社の口座にコツコツ積んでるから、老後は安心だよ」と。

その言葉を聞いて、思わず「一度、設計を見直してみませんか」と返してしまいました。実は、現金のまま社内に積み立てる方法には、気づかれにくい大きなコストが潜んでいます。

現金積立という「当たり前」が、じつは損をしている

退職金の準備として、会社の口座に毎月一定額を積み立てていく社長は多いです。手堅く見えますし、「いざとなればすぐ使える」という安心感もある。

ただ、この方法には見落としがちな落とし穴があります。積み立てた現金は法人の利益として毎年課税対象になります。法人実効税率はおおよそ34%。退職金として1,000万円を準備しようとすると、税引き前では約1,515万円の利益が必要になる計算です。

積み立てるたびに、静かに税金が削り取っていく。これが現金積立の実態です。

「知っている社長」が選ぶ、もう一つのルート

法人税を繰り延べながら退職金を準備できる方法があります。解約返戻率が85%前後の法人保険を活用するやり方です。

この種の保険は、支払保険料のうち40%を損金に算入できます。全額が経費になるわけではありませんが、課税を先送りしながら資産を積み上げていける点が大きなメリットです。

たとえば年間500万円の保険料を払い続けると、毎年200万円分が損金として法人税の計算から外れます。10年続ければ2,000万円分の損金効果が生まれ、税率34%換算で約680万円の節税になります。

退職時に二重の優遇が効く

さらに面白いのは、退職時の出口設計です。

保険を解約して得た返戻金を退職金として支払うと、個人側にも税優遇が働きます。退職所得には「退職所得控除」と「1/2課税」という、給与や事業所得にはない特別ルールがあります。

勤続20年なら控除額は800万円、30年なら1,500万円。さらに控除後の金額を2分の1にしてから所得税が計算されます。同じ3,000万円を受け取るにしても、退職金として受け取ったほうが税負担は大幅に軽くなるのです。

試算すると、差は約4,800万円

現金積立ルートと法人保険ルートを比較した試算では、最終的な税負担の差が約4,800万円にのぼるケースがあります。

現金を積み続けながら法人税を払い、退職時にも給与で受け取るような設計と、保険で税を繰り延べながら退職所得として受け取る設計。同じ「退職金を準備する」という目的なのに、ゴールでこれだけの差が開くことがあるのです。

もちろん、この数字はひとつの試算です。会社の規模、保険の設計、役員の在任年数、解約のタイミングによって結果は変わります。「4,800万円」はあくまで目安として、自社の数字で検証することが大切です。

導入前に確認しておきたい3つのポイント

法人保険の活用は有効な手段ですが、いくつか気をつけてほしいことがあります。

ひとつは、解約返戻率のピークを見極めること。返戻率が高い時期を外すと、想定より手元に戻らないケースがあります。退職予定の時期に合わせて設計するのが基本です。

ふたつめは、退職金規程との整合性です。役員退職金は功績倍率や最終報酬月額をもとに算出される合理的な金額でないと、損金算入が否認されることがあります。保険の設計だけでなく、退職金規程の整備も同時に進めることが必要です。

みっつめは、保険料の資金繰りへの影響です。毎月の保険料支出が会社のキャッシュフローを圧迫しないか、運転資金に余裕のある段階で組み込むことが前提になります。

「後で考える」が一番もったいない

退職金の準備は、早く始めるほど効果が出ます。50代後半に差し掛かってから慌てて動いても、保険の積立期間が短くなり、得られる返戻金は限られます。

現在40〜50代前半の社長であれば、今が設計を見直す絶好のタイミングです。すでに現金積立をしているなら、法人保険との組み合わせを税理士に相談してみることをおすすめします。「現金でいいや」と思っている社長ほど、一度試算してもらうだけで驚かれることが多いです。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。