先日、創業25年の製造業の社長からこんな相談を受けました。「来年退職を考えているんですが、退職金は1億円くらいになりそうで。それってどのくらい税金がかかりますか?」

退職金は、税制上きわめて有利な扱いを受ける収入です。でも、「どれだけ有利になるか」は設計次第で大きく変わります。実際に、同じ1億円の退職金でも、手取り額が1,500万円以上変わるケースがあるんです。

退職所得の1/2課税——知られていない破格の優遇

給与所得や事業所得と違い、役員退職金は「退職所得」として扱われます。計算方法が根本的に異なるため、同じ金額でも税負担がまったく変わります。

課税退職所得の計算式はこうです。

(退職金 − 退職所得控除)÷ 2 = 課税退職所得

「÷2」がポイントです。勤続25年で退職金1億円の場合、退職所得控除は1,150万円。課税対象は(1億円−1,150万円)÷2 ≒ 4,425万円になります。この金額に対する税率は約23%程度で、実質的な税負担は1,000万円前後に収まる計算です。

一方、同じ1億円が給与所得として課税された場合、最高税率55%が適用されると税負担は5,500万円近くにもなります。この差こそが、退職金設計の核心にあります。

1,500万円の差を生む「2つの設計ポイント」

功績倍率3.0倍の根拠書類

役員退職金の計算には、よく使われる公式があります。

最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率

功績倍率は最大3.0倍とされていますが、「3.0倍にすれば必ず認められる」という意味ではありません。税務署が問うのは「なぜ3.0倍が妥当なのか」という根拠です。

業績への貢献度、経営危機での判断、業界内での地位、会社の規模感——そういった要素を裏付ける書類が整っていて初めて、3.0倍が認められます。計算式だけ提示しても、税務調査で否認されるリスクは十分あります。

最終報酬月額の水準設計

もうひとつ見落とされがちなのが、最終報酬月額の設定です。功績倍率方式では最終報酬月額が計算の基準になるため、退職直前だけ急に月額を引き上げる手法を試みる方がいます。

ところが税務署はこのパターンを熟知しています。直近数年の報酬水準と比較して「不自然な引き上げ」があれば、その部分を除外して計算し直します。月額100万円で計算した退職金が、税務署の目線では月額70万円ベースに引き直される、といった事態が実際に起きています。

この2点の設計ミスが重なると、手取り差が1,500万円に達することは十分にあり得ます。

「過大退職金」と否認されたら何が起きるか

税務署が「この退職金は過大だ」と判断した場合、超過部分は退職所得ではなく給与所得として課税されます。

1/2課税の恩恵がなくなり、最高税率55%が適用される可能性があります。さらに追徴課税には加算税と延滞税がつきます。「手取りが減った」だけで済まず、「想定外の多額納税が必要になった」という事態になりかねません。税務リスクは、設計段階で排除しておくことが何より重要です。

動き出すタイミングは「退職の3年以上前」

退職金設計で最もよく聞く後悔が、「もっと早く相談しておけばよかった」という言葉です。

報酬月額を段階的に引き上げておくには数年のリードタイムが必要ですし、功績倍率の根拠となる実績を積み上げ、文書化しておくにも時間がかかります。退職の1年前に動き出しても、できることはかなり限られてしまいます。

税制は毎年変わりますし、役員報酬の設定には定時株主総会の縛りもあります。50代半ばになったら、まず税理士と「出口設計」について話しておくことをお勧めします。経営者としての集大成である退職金だからこそ、設計に時間をかける価値があります。

退職の予定がまだ先でも、今から少しずつ準備を進めていくことが、最終的な手取り額の最大化につながります。ぜひ一度、専門家に相談してみてください。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。