先日、創業28年の建設会社を経営する65歳の社長から、こんな言葉をいただきました。
「そろそろ息子に会社を渡そうと思っているんだけど、自分の老後のお金、このままだと全部税金に持っていかれそうで……」
こういう相談、引退を意識し始めた社長からよく受けます。現役中はとにかく売上と利益を追いかけてきたけれど、「どうやって受け取るか」を考えていなかった、という方が本当に多い。
引退前の数年間は、節税の「ラストチャンス」です。この時期に何を仕込んでおくかで、最終的な手取りが数千万円単位で変わることは珍しくありません。今回は、引退を視野に入れた社長に必ず知っておいてほしい節税策を3つ、効果の大きい順にご紹介します。
第3位:小規模企業共済——積み立てながら、毎年節税
まだ加入していないなら、今すぐ検討してほしい制度です。
月最大7万円、年間で最大84万円を掛金として拠出でき、この全額が所得控除になります。課税所得が高い社長なら実効税率30〜40%とすると、年間25万〜34万円近い税負担の軽減が見込めます。10年続ければ累計300万円超の節税効果になる計算です。
さらに受け取り時の優遇が大きい。廃業・退任時に受け取る共済金は「退職所得」として扱われるため、後ほど説明する退職所得控除の恩恵を受けられます。現役中は所得控除で税を抑え、受け取り時も有利な課税区分——一粒で二度おいしい制度です。
加入期間が長いほど受取額も積み上がるので、引退まで5年・10年とある方ほど効果が高まります。「知らなかった」では取り返しがつかないので、まず加入の検討を最優先にしてください。
第2位:法人保険——退職金の原資を、法人コストで積み上げる
法人保険を退職金設計に組み込む手法は、正しく使えば非常に強力です。
一定の条件を満たす保険は、支払った保険料の一部を損金に算入できます。法人税を抑えながらお金を積み立て、解約時に受け取る「解約返戻金」を役員退職金の原資に充当する——これがこの手法の骨格です。
ただし、2019年の国税庁通達改正以降、設計が一段と複雑になっています。最高解約返戻率によって損金算入できる割合が変わるため、「節税になると聞いて入ったのに、思ったより効果がなかった」というケースも出てきています。
保険単体で節税商品として捉えるのは危険です。退職金設計の一部として、「いつ解約するか」「退職金はいくらにするか」まで含めて設計しないと、効果は半減します。必ず税理士・保険の専門家と連携して組み立ててください。
第1位:役員退職金——引退節税の「最終兵器」
引退前の節税策として、効果の大きさで他を圧倒するのが役員退職金です。
まず「退職所得控除」が強力です。勤続年数20年超の場合、控除額は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算されます。勤続30年なら1,500万円、40年なら2,200万円が非課税になる計算です。長く会社を続けてきた社長ほど、控除額が積み上がっています。
そして課税対象になるのは、控除後の残額の2分の1だけ。給与や事業所得と合算されず、分離課税として単独で計算されます。この2つの特典が組み合わさることで、数千万円の退職金を受け取っても、実際の税負担は想像より大幅に小さくなります。
ただし、役員退職金には「不相当に高額」と税務署に認定されるリスクもあります。功績倍率や最終報酬月額をもとに適切な水準を設定することが求められるため、金額設定は必ず顧問税理士と詰めてください。
3策は「組み合わせ」が前提
この3つは、単独で使うより連動させて設計するのが理想です。
小規模企業共済で個人レベルの積み立てを続けながら、法人保険で退職金の原資を準備し、退任時には役員退職金として最大限の控除を活かして受け取る。この流れを5年前・10年前から計画的に設計しているかどうかで、最終的な手取りは大きく変わります。
「引退はまだ先」と思っているうちに、あっという間に時間は過ぎていきます。引退を少しでも意識し始めたなら、まず顧問税理士に「退職金設計の相談がしたい」と切り出してみてください。準備は早いほど選択肢が広がります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。