先日、ある60代の社長からこんな相談を受けました。
「10年以上かけて法人保険を積み上げてきたんですが、そろそろ引退しようと思って税理士に相談したら、『解約したら億単位の税金がかかります』と言われてしまって……」
このケース、よくある「保険の出口を設計していなかった」パターンです。でも、正しいタイミングと組み合わせを知っていれば、話はまったく変わってきます。
法人保険の「出口」を間違えると損をする
法人保険は、払い込んだ保険料を損金として計上できる点に節税効果があります。問題は、解約したときです。解約返戻金は益金(=利益)として法人の決算に計上されるため、何も手を打たなければそのまま法人税の課税対象になってしまいます。
たとえば年間1,500万円の保険料を10年積み上げると、解約返戻金は1億円前後になるケースがあります。これを手をこまねいて解約すれば、法人に1億円の益金が発生します。実効税率34%で計算すると、3,400万円超の法人税がかかる計算です。
「節税のために入ったのに、出口で大きな税金を払う」という皮肉な結果になりかねません。
退職金と同年に動かすと「相殺」できる
ここで使える手法が、退職金との同年相殺です。
社長が退職する年に合わせて法人保険を解約すると、解約返戻金(益金)と役員退職金の支給(損金)が同一事業年度に計上されます。益金と損金が打ち消し合う形になるため、法人段階での課税を大幅に圧縮できるのです。
退職金は「不相当に高額でない」という条件を満たせば全額損金算入できます。役員報酬月額×在任年数×功績倍率が一般的な計算基準で、この範囲内であれば税務署に否認されるリスクも低く抑えられます。
さらに「退職所得優遇」が重なる
法人段階での節税だけで終わりではありません。役員本人が受け取る退職金にも、給与や配当とはまったく異なる有利な税制が適用されます。
退職所得の課税対象は、次の計算式で求めます。
- 課税対象 =(退職金額 − 退職所得控除)× 1/2
この「1/2課税」が効いてきます。仮に退職金1億円を受け取り、勤続30年であれば退職所得控除は1,500万円。残り8,500万円の1/2、つまり4,250万円にしか課税されません。同額を給与で受け取る場合と比べると、手残りの差は歴然です。
具体的な数字で確認してみる
年間1,500万円の保険料を10年積み上げ、退職時に解約したケースを想定してみましょう。
- 解約返戻金(想定):1億2,000万円(益金)
- 退職金支給額:1億2,000万円(損金)
- 法人段階での節税:1億2,000万円 × 34% = 約4,000万円
これが法人レベルの節税効果です。さらに個人段階での退職所得優遇が重なります。保険料積み上げ期間中に損金算入できていた節税効果も含めると、何も対策しなかった場合と比べた手残りの改善は、年換算で500万円を超えることも十分にあり得ます。
タイミングが命。焦りは禁物
この手法で最も重要なのは「タイミング」です。退職金の支給と保険の解約が同一事業年度内に収まっていないと、相殺の効果が得られません。退職金を先に払って翌期に解約する、あるいは逆のパターンでも同じです。同一年度での処理が絶対条件です。
また、法人保険の税務取り扱いは近年何度か改正されています。加入時期によって損金算入ルールが異なるため、「昔に入ったから大丈夫」という思い込みは危険です。現在の契約内容を税理士と確認しておく必要があります。
「入る」より「出る」の設計が先
これから法人保険を検討している方には、加入時点から「いつ・どうやって解約するか」まで設計することを強くすすめます。すでに保険を積み上げている方も、引退が10年先であっても今から出口戦略を立てておくことが重要です。直前に動いてもタイミングが合わず、効果が半減するケースは少なくありません。
「保険で節税できる」は入口の話です。退職金と組み合わせて本当の節税効果を引き出すには、出口の設計がすべてです。まず現在の保険内容と退職予定年を税理士に共有し、シミュレーションを依頼するところから始めてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。