先日、創業25年の製造業の社長から「そろそろ後継者に会社を譲って退職金を受け取ろうと思っているんですが、最近ルールが変わったと聞いて…」というご相談をいただきました。
話を詳しく聞いてみると、退職後の生前贈与計画をかなり前から立てていたのですが、知らないうちに制度が変わっていて、せっかくの節税プランが崩れかけていることがわかりました。
退職金は、うまく設計すれば社長の手取りを大きく改善できる手段です。ただし、制度変更のタイミングで見直しを怠ると、思わぬ税負担を抱えることになります。今回は、最近特に相談が増えている3つの変更点をお伝えします。
3位:退職後の贈与計画が「7年ルール」で狂う
見落としがちなのが、生前贈与の加算期間の変更です。
2024年1月から、相続が発生した際に相続財産に引き戻される生前贈与の期間が、それまでの「相続前3年以内」から「最長7年以内」へと段階的に延長されています。
たとえば、退職後に毎年110万円の暦年贈与を子どもへ続けるプランを立てていた場合、以前は亡くなる直前3年分が課税対象に戻し加算される計算でしたが、今後は最大7年分が対象になります。単純計算で最大770万円分が引き戻される可能性があるわけです。
「退職金を受け取ったら、あとはコツコツ贈与すれば大丈夫」という昔ながらのプランは、今のルールには合っていません。贈与計画を見直すなら、教育資金一括贈与や相続時精算課税の活用なども含めて、早めに全体を整理することをおすすめします。
2位:役員在任5年以下の退職には「半額課税」の恩恵がない
次は、特に創業から日の浅い会社や二代目社長に多いパターンです。
退職所得には「退職所得控除」と「1/2課税」という、他の所得にはない有利な税制があります。ざっくり言えば、退職金は同じ金額でも給与より税負担がずっと軽くなる仕組みです。
ただし、役員としての在任期間が5年以下の場合は「特定役員退職手当等」に該当し、このうち「1/2課税」の恩恵が受けられません。同じ1,000万円の退職金でも、在任5年超かどうかで税負担は数百万円単位で変わることがあります。
「まだ5年経っていないが、業績が好調なので今期に退職を検討している」という社長は、一度試算してみることを強くおすすめします。在任期間は意外と盲点で、「5年経ったと思っていたが実は4年11ヶ月だった」という事例も実際にあります。就任日を正確に確認するのが先決です。
1位:功績倍率「3倍」は法律で決まった上限ではない
最も重要で、かつ最も誤解が多いのがこれです。
役員退職金の計算では「最終月額報酬 × 在任年数 × 功績倍率」という算式がよく使われ、「功績倍率は最大3倍まで」という説明を聞いたことがある社長も多いと思います。ところがこれ、法律や政令で定められた上限ではありません。過去の裁判例や税務調査の実例から導き出された「実務上の目安」にすぎません。
もっと重要なことをお伝えすると、退職慰労金の支払いには「退職慰労金規程」の整備と「株主総会の決議」が必要です。この手続きが不備のまま退職金を支払った場合、全額が損金不算入になる、つまり法人税の節税効果がゼロになるリスクがあります。
「長年務めた社長の退職祝いとして退職金を支払ったが、規程も総会決議もなかったため全額損金否認された」という事例は珍しくありません。引退の計画が具体的になってきたら、まず規程の有無を税理士に確認してもらってください。
退職金設計は「引退の5年前」から始めるべき理由
今回の3つのポイントを見ていただければわかるように、退職金の設計は「退職直前に考えるもの」ではなくなっています。
在任期間の管理・贈与のタイミング・規程の整備、どれも数年単位の準備が必要です。特に2024年以降の生前贈与ルール変更は、退職後の財産承継全体に影響するため、相続対策とセットで考えることが欠かせません。
「退職金はそのとき考えれば良い」と先送りにしている社長ほど、制度変更の影響をまともに受けやすい状況になっています。今期の決算が終わったタイミングで、一度プロに相談してみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。