先日、ある製造業の社長(65歳)から電話がありました。「税理士に言われて息子に株を渡そうとしたら、贈与税の試算が出てきてびっくりした。数千万円って何ですか、これ?」
業績が伸びた結果、自社株の評価額が数年前の3倍近くになっていたのです。手を打つのが少し遅れただけで、これほど話が変わってしまう。これが事業承継の怖さです。
今回は、実際に息子への事業承継を経験した社長たちが「もっと早く動けばよかった」と口をそろえる後悔ポイントを、よく聞かれる順にまとめました。
3位 株価が上がりきってから動いた
業績が好調なこと自体は喜ばしいことです。ただ、事業承継という観点では、それが大きな落とし穴になることがあります。
非上場の中小企業でも、会社の業績や資産状況に応じて「自社株の評価額」が計算されます。利益が増えれば増えるほど、この評価額も上がっていく仕組みです。息子に株を渡す際に評価額が高ければ高いほど、贈与税や相続税の負担がその分増えます。
あるケースでは、5年間で株価評価が3倍近くになり、贈与税の試算が当初の見込みより2,000万円以上増えていたこともありました。こうなってからでは、できる対策が限られてしまいます。
株価対策は「業績が落ち着いてから」では遅いのです。むしろ株価が低い段階、業績が伸びる前に動き始めることが鉄則です。
2位 特例の期限切れを知らなかった
事業承継税制という制度をご存じでしょうか。
一定の要件を満たせば、後継者が事業を継続する限り、自社株にかかる贈与税・相続税を最大100%猶予してもらえる制度です。うまく活用できれば、数千万円規模の税負担をそのまま棚上げにできる、中小企業オーナーにとって非常に強力な仕組みでした。
「でした」と過去形を使ったのには理由があります。
この制度には特例措置と一般措置があり、特例のほうが圧倒的に使い勝手が良かったのですが、特例承継計画の提出期限が2026年3月末に終了しています。期限内に書類を提出していなかった場合、特例措置の適用は受けられません。
「知らなかった」「顧問の税理士から話を聞いたことがなかった」という声を、今でもよく耳にします。特例が使えなくなった今、一般措置での対応や他の手法を組み合わせるしかなく、選択肢が確実に狭まっています。
1位 後継者教育を「いつかやろう」と先送りした
これが最も多く、最も後悔の声が大きいテーマです。
「息子には追い追い引き継ごう」「まだまだ俺が現役でやれる」という気持ち、社長なら誰しも持っているものでしょう。ところが気がつけば70歳を過ぎ、息子は40代になってから急に「はい、明日から社長ね」となる。これでは後継者が経営に行き詰まるのも無理はありません。
専門家の間では、事業承継は最低でも5年前から計画的に動くことが理想とされています。権限の移譲・社内の根回し・主要取引先への挨拶・借入の保証人切り替えなど、やるべきことは山のようにあります。
ある社長は「3年で引き継げると思っていたが、息子が主要取引先に認められるだけで2年かかった」と言っていました。経営というのはノウハウだけでなく、信頼関係ごと引き継ぐものだからです。「いつでも引き継げる」は、多くの場合ただの幻想です。
今からでも手が打てることはある
特例の期限が過ぎた今、できることが減ったのは事実です。ただ、完全に手詰まりというわけではありません。
自社株の評価を引き下げる手法、一般措置の事業承継税制の活用、生命保険を活用した相続対策など、状況によってはまだ有効な選択肢が存在します。
大切なのは「まだ先でいい」という感覚を一度リセットすること。事業承継は老後の問題ではなく、今この瞬間の経営判断の問題です。
息子への承継を漠然と考えているなら、まず専門家に現状の自社株評価額を確認してもらうところから始めることをおすすめします。数字を見てから動いても、遅くはありません。今期中に一度、相談の場を設けてみてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。