先日、こんな相談を受けました。

「税理士に退職金の話をしたら、『まだ早い』と言われたんです。でも早すぎるってことはないですよね?」

おっしゃる通りです。退職金の設計は、引退の10年前どころか、会社を設立した段階から考え始めてちょうどいい。特に在任年数は、あとから巻き戻せない変数です。今日は、在任年数を意識した退職金設計の「三つの区切り」について話していきます。

退職所得控除の基本——年数がすべてを決める

役員退職金が節税として機能する最大の理由は、「退職所得控除」の大きさにあります。

給与や賞与と違い、退職金は課税前に一定額を控除できる仕組みになっています。この控除額が、在任年数に連動して変わります。つまり、同じ金額の退職金でも、在任年数によって手取りが大きく変わってくるわけです。

しかも退職所得は、控除後の金額をさらに2分の1にしてから税率をかける計算になっています。給与と比べて税負担が大幅に軽い。だからこそ、設計次第で手取りが動く余地が大きい。

3位:在任20年——見えない壁の正体

退職所得控除の計算式には、20年を境に大きな変化があります。

在任20年以下の場合、1年あたりの控除額は40万円。これが21年目からは70万円に跳ね上がります。

たとえば在任20年なら控除額は800万円。21年在任すると870万円。たった1年の差で、70万円控除が増えるわけです。ちょっとした旅行が何度もできる金額ですよね。

20年というのは、中堅社長の年齢で言えば50代前半あたりが多い時期です。「そろそろ引退も考えるか」と思い始めるまさにそのタイミングに、この壁が静かに存在しています。20年のちょっと手前で引退を考えているなら、少し踏みとどまるだけで控除額が大きく変わる。知っているかどうかで判断が変わる情報です。

2位:年数が伸びると「二重に得をする」仕組み

在任年数が長くなると、実は2方向で得をします。

ひとつは今お話しした控除額の増加。もうひとつは、退職金の原資そのものが増えること。

役員退職金の一般的な計算式は、「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」です。月額報酬が100万円、在任年数20年、功績倍率3倍なら、退職金は6,000万円になります。

この年数を25年に伸ばすと、同じ報酬・同じ功績倍率でも7,500万円。差額の1,500万円は、在任を続けたことで積み上がった「時間の資産」です。

さらに年数が伸びれば控除額も増えるので、手残りの増加は単純計算以上になります。年数という変数は、退職金の原資と課税の両方に同時に効いてくる。そういう意味で、在任年数は退職金設計において最も重要な変数と言えます。

1位:「逆算設計」が最終的な手取りを決める

在任年数の効果を理解したうえで、多くの顧問先に実践してもらっているのが「逆算設計」です。

やり方はシンプルです。まず、「何歳で引退したいか」を決める。そこから逆算して、在任年数・月額報酬・功績倍率の三つをセットで設計します。今の報酬水準で何年続ければ目標退職金に届くのか。目標退職金を出すために報酬をいくらに設定すべきか——これを現役のうちに試算しておくわけです。

逆算していない社長は、引退が近づいてから慌てて「退職金をいくら出せるか」を計算します。でもそのとき、在任年数はもう変えられません。月額報酬を急に上げても、直前だけ高くすれば税務調査でリスクになる。打てる手がどんどん少なくなっていく。

逆算設計をしている社長は、数年単位で報酬・退職金・控除のバランスを調整しながら走れます。同じ年数、同じ規模の会社でも、設計しているかどうかで手取りに数百万単位の差がつくのはそのためです。

今から動けば、時間は味方になる

この話を聞いて、「もう手遅れかも」と思った社長がいたら、少し待ってください。

20年の壁にまだ届いていないなら、今からカウントを積み上げる価値があります。控除額が増え始めるラインまであと何年あるか——それだけ確認するだけでも、退職金設計の景色が変わります。

すでに在任年数が長い場合でも、功績倍率や報酬水準の見直しで原資を調整する余地は残っています。一つの変数だけを見るのではなく、三つをセットで見直すのがポイントです。

退職金は「もらう直前」に考えるものではなく、「現役のうち」に仕込むものです。今期の決算が終わったら、ぜひ一度、顧問税理士と退職金の逆算試算をしてみてください。設計のある経営者とそうでない経営者では、最終的な手残りに大きな差がつきます。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。