先日、事業承継を済ませたばかりの社長からこんな連絡をもらいました。「税務署から調査の通知が来た。承継してまだ2年も経っていないのに、なんで今なんですか?」

実はこれ、珍しい話ではありません。事業承継の直後は、税務署が最も注意深く見てくる時期なんです。今回はその理由と、承継後すぐにやっておくべき対策をお伝えします。

承継直後に税務調査が来やすい、これだけの理由

税務署は「大きなお金が動いた直後」に目を光らせます。株式の贈与や相続が発生する事業承継は、まさにその典型です。

特に確認されやすいのが、株式評価の計算方法です。非上場株式の評価は複雑で、純資産や類似業種の株価をもとに算定しますが、「評価額を意図的に低く操作したのではないか」という点を税務署はしっかり見てきます。

前社長への退職金も注意が必要です。役員退職金は「最終月額報酬×在任年数×功績倍率」で計算しますが、功績倍率の水準が相場から外れていると、経費として一部否認されるリスクがあります。計上のタイミングも含め、承継のタイミングに合わせて金額が膨らんでいないか、厳しく確認されます。

事業承継税制を使っていた場合、リスクは一段と高くなる

贈与税・相続税の猶予が受けられる「事業承継税制」を活用している場合は、さらに注意が必要です。

この制度、使えば莫大な節税になる半面、毎年「継続届出書」を税務署に提出し続ける義務があります。提出を忘れた、要件から少しでも外れた——それだけで、猶予されていた税金が一括で徴収される可能性があるんです。

例えば、承継後に後継者が一時的に代表取締役を退任した場合。病気療養のやむを得ない事情であっても、要件違反と判断されることがあります。猶予額が数千万円、場合によっては1億円を超えることもありますから、要件の管理は会社の存続に直結すると言っても過言ではありません。

承継後すぐにやっておくべき3つのこと

税務調査で慌てないために、承継後の早い段階で整えておきたいことが3点あります。

① 議事録・契約書を今すぐ確認する

株主総会の議事録、取締役会の議事録、株式譲渡契約書——これらが揃っているかどうかをまず確認してください。「いつ、誰が、何を決めたか」を証明できる書類がないと、評価額や退職金の計上根拠を主張できなくなります。

調査が来てから慌てて整備しても、後付けと見られてしまいます。今のうちに揃えておくのが鉄則です。

② 退職金は事前に税理士と数字を確認する

退職金は「適正額かどうか」が最も争点になりやすい項目の一つです。金額の計算根拠、支払い時期、議事録への記録——この3点を税理士と事前にすり合わせておくだけで、調査リスクは大きく下がります。支払い後に「高すぎる」と指摘されると、追徴課税につながることもあります。

③ 届出書の提出は「仕組み」で管理する

事業承継税制を使っている場合、届出書の提出スケジュールを担当者の記憶や手帳任せにしておくのは危険です。顧問税理士との間で「毎年この時期に確認する」というルーティンを決め、提出漏れを防ぐ体制を作っておきましょう。

承継後こそ、税理士との連携を密に

事業承継は「終わり」ではなく、新しいフェーズの「始まり」です。特に最初の2〜3年は、税務リスクが最も集中する時期と言えます。

「承継が完了したから一段落」と思っていた矢先に調査通知が届く——そんな事態を防ぐためにも、承継直後こそ顧問税理士と定期的に状況を確認する習慣を作ってください。届出書の管理状況、議事録の整備状況、退職金の根拠資料——この3点だけでも、今すぐ確認してみることをおすすめします。

※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。