先日、顧問先の社長からこんな連絡が来ました。「税務調査で、退職金が全額否認されそうだと言われています」。その社長は、先代から会社を引き継いだばかりで、創業者の退職金として3,000万円を支払っていました。計算根拠も当時の税理士に確認して支払ったものだったのですが——結果的に、全額が損金不算入とされてしまいました。\n\n役員退職金は、受け取るオーナー側にとっては分離課税で税率が低く、支払う法人側では全額損金算入できるという、両面で節税効果を持つ制度です。だからこそ、税務署も重点的にチェックしてきます。今回は、実際に否認されやすい3つのパターンをリスクの高い順に解説します。\n\n## 3位:退職後も”同じ顔”で会社に来ている\n\n退職金を支払うには、当然「退職した」という事実が必要です。でも実際には、社長が代表取締役を退いた後も、ほぼ毎日出社して以前と変わらない業務をこなしているケースが少なくありません。\n\n税務調査官は、こんなことを確認しています。退職後の役職は何か。出社頻度はどのくらいか。業務の意思決定に関与しているか。取引先への挨拶メールや名刺の記載はどうなっているか。\n\n「代表を退いたとはいえ、会長として週3日来ていて、重要な取引の決裁も続けていました」というケースで、退職金が否認された事例もあります。常勤から非常勤へ移行した「実態」を書面と行動で示せなければ、退職そのものが認められません。退職後の業務内容を変え、出社日数も減らし、その証跡を残しておくことが重要です。\n\n## 2位:規程も議事録も「後から作りました」\n\n退職金の金額は、誰がどのように決めたのでしょうか。これが曖昧だと、税務調査で一気に崩されます。\n\n法人が退職金を支払うには、①退職慰労金規程(算定方法を定めたもの)、②株主総会や取締役会の決議議事録——の2点がセットで必要です。どちらか片方でも欠けていると、「オーナーの気まぐれで決めた金額では?」と見なされ、恣意的な支給として全額否認のリスクが出てきます。\n\nよくあるのが、「退職金を払うことは決めていたが、規程の整備が後回しになっていた」というパターンです。調査が入ってから慌てて作っても、日付の不自然さや金額との整合性のなさで、すぐにバレます。退職金の支給を検討し始めた段階で、規程の整備と議事録の作成を同時進行させることが鉄則です。\n\n## 1位:功績倍率が”根拠なき高倍率”になっている\n\n最も否認件数が多く、追徴税額も大きくなりやすいのがこのパターンです。\n\n役員退職金の相場は、次の計算式が基準になります。\n\n最終月額報酬 × 勤続年数 × 功績倍率\n\nこの功績倍率、一般的に代表取締役なら2.0〜3.0程度が認められる範囲とされています。3.0を超えてくると、税務署から「なぜその倍率なのか」と必ず聞かれます。\n\n問題になるのは、「うちの社長は会社をゼロから作り上げたのだから、功績倍率4.5でも当然だ」という判断を、根拠なくしてしまうケースです。業界の相場や同規模企業との比較、退職者のポジションに応じた根拠資料がなければ、税務署は認めてくれません。\n\nたとえば最終月額報酬100万円、勤続30年、功績倍率4.0で計算すると退職金は1億2,000万円。この水準で倍率の根拠が薄いと、法人税と個人の所得税・住民税を合わせた追徴課税が数千万円規模に達することもあります。設計段階で税理士と綿密にシミュレーションしておくことが、何より重要です。\n\n## 支給前に確認したい3つのポイント\n\n退職金の否認は、知識があれば防げるリスクです。支給前に以下の3点を必ず確認してください。\n\n- 退職後の役員は、実態として非常勤になっているか(出社日数・業務内容が変わっているか)\n- 退職慰労金規程と株主総会議事録は、支給前に整備されているか\n- 功績倍率に、同業他社比較などの客観的な根拠があるか\n\nこれらのうちひとつでも「怪しいかも」と感じたなら、決算前に必ず顧問税理士に確認しておくことをおすすめします。退職金は一度払ってしまうと取り消しが難しく、否認されたときのダメージが大きすぎます。\n\n特に功績倍率の設計は、感覚で決めてしまいがちなポイントです。数千万円規模の追徴リスクを避けるためにも、今期の退職金支給を検討しているなら、早めに専門家に相談することを強くおすすめします。\n\n※本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な税務判断は税理士にご相談ください。
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